44枚目 ページ44
その方法は簡単なものだ。ここは上物の客を相手にしている場だ。相応しくないとみなされた客は即刻に退場させられて、二度とこの賭場を訪れることは許されなくなるだろう。そこを逆手にとればもう一枚の本物を手に入れることができる。そう踏んだのだ。今回、私が同行したのは上海に会社を持つ日本人。正確には父親が会社のトップなのだが、本人は頭が軽いのか我がもの顔でそれをひけらかす。プライドだけの高い男なのでこいつを利用させてもらう。
以前から目をつけていた男だが、とっておきの切り札として隠しておいた存在だと言える。他のターゲットとダンスホールを訪れた際にもこの男は私を口説いてきたことがあった。それに見向きもしない態度をとっていたが、今日一人でダンスホールにいる時に声をかけられて私はそれに応じた。向こうは私が惚れたとでも思っているのかひたすらに政治や金の話しを話題にし結婚を迫ってくる。あまりにも執念なので笑って誤魔化しているとそれをどう思ったのか話が加熱してしまった。
彼が気をよくしてゲームをする最中、「あなたが言ってた話しなんだけど」と切り出してみた。「結婚しようって話かい。あれなら」意を決して話す。「私、やっぱりお受けできません」彼の声色が途端に変わり、周囲の注目を集めた。着席を求めるディーラーの声を無視して彼は私と出会って数日で申込んだ婚約破棄に理由を求める。「君が来たいって言うから、こうして賭場にも連れて来てやったんだろ」そう言う彼の言葉全てに「ごめんなさい」と無意味な謝罪で返す。ついに逆上した彼が自分の通行許可の硬貨を投げ捨て、私を殴ろうとしたところで扉の前にいた大柄の男に問答無用で退場させられていた。私も周囲の人々に騒いでしまったことを詫びて賭場を後にした。私のポケットには硬貨が二枚。一つは私ので、もう一つは怒って投げ捨てた彼のもの。
少し前に私が偽物と入れ替えておいたものを彼はディーラーの目の前で投げ捨てたのだ。あの男も自分の意思で硬貨を投げてしまった手前、いまさら賭場に入る通行手段を失った後悔もないだろう。賭場側も彼の所持した硬貨をきちんと回収できる。その上それが偽物だとわかると二度と彼の入室を許さないはずだ。そう言うわけで本物を二枚手に入れたところで上海での私の仕事は一段落。この硬貨を次に使うであろう男に引き渡しに行く事にする。
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カナリアナ(プロフ) - エルモさん:仲間ですね！！自己満足になってしまうんですが、小説も頑張っていこうと思います。読んでくれてありがとうございます！！ (2019年12月9日 21時) (
レス) id: ddfa994d58 (このIDを非表示/違反報告)
エルモ - ジョカゲ好きです！！ (2019年12月9日 20時) (レス) id: 9cee2cc714 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カナリアナ | 作成日時：2018年12月12日 21時
