38枚目 最後の晩餐 ページ38
きちんとした合言葉だと確認がとれ車に乗り込む。男は伊沢をミラー越しに見て車を走らせた。途中、うたた寝をする伊沢を乗せ車は街中で止まった。伊沢の後方のドアが開き女が乗ってきた。女はスコットランド訛りで乗車をお願いしてきた。構わない、と言うように伊沢はまた眠りにつく。ロンドン市内でスコットランド訛りとは珍しい。それに、なぜ乗車を運転手は許可したのか。彼の日焼けした肌を見るに本業は車を使う仕事なのか。それに......。いや、余計な詮索はやめておこう。
女は行き先も伝えず車内は無音に包まれている。しばらく走ると、女は車を降りた。もう少し先で伊沢は目的地の日本に帰国するための船場に着いた。船に乗り、予定外の急な脱出だったために着替えも荷物も何も持ってはいない。あてがわれた自室でどうしようかと考える。食事やパーティに参加しないとなればかえって、目を引いてしまう。誰も知るはずがない伊沢の部屋のドアにノックが響いた。伊沢には豪華客船内に待ち合わせる人もそんな指示も無い。警戒をしながら部屋のドアを開けた。するとそこには着飾ったAが立っている。「すみません、部屋を間違えました」伊沢は、頬を染めて踵を返し去ろうとする女に声をかけた。「ちょうど良かった。ぜひ君みたいな綺麗な女性とパーティの時間を共有したい」いつもの調子でAを口説く。
伊沢の誘いにAは「十九時にパーティが開かれるから迎えに来て」と伝える。「ありがとう。良い旅を」そう言ってAと神永は別れた。室内に戻った神永は再び作戦を練る。さてと、正確にはパーティの開始は二十時からだ。それまでにAにもう一度接触しろってことか。神永は時計に目を向ける。時計の針は十九時まであと、三十分を示している。Aからは待ち合わせ場所も接触方法も限定されていない。困ったなあ、まともな服もないんじゃパーティの準備をしないままで船内は歩き回れない。神永は自分の姿に目を向ける。くたびれたシャツに顔は疲れきっていてお世辞にもパーティ向きな格好だとは言えない。流石の神永でも紳士の国のドレスコードをぞんざいに扱う勇気など生憎だが持ち合わせていないのだ。できる限りの抵抗として乱れた髪をある程度は整えてシャツのボタンをきちんと留めた。袖口から英国で受けた素晴らしいもてなしの勲章である独特なあざが見えない様に気をつける。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 36人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
カナリアナ(プロフ) - エルモさん:仲間ですね！！自己満足になってしまうんですが、小説も頑張っていこうと思います。読んでくれてありがとうございます！！ (2019年12月9日 21時) (
レス) id: ddfa994d58 (このIDを非表示/違反報告)
エルモ - ジョカゲ好きです！！ (2019年12月9日 20時) (レス) id: 9cee2cc714 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：カナリアナ | 作成日時：2018年12月12日 21時
