32枚目 ロビンソン・クルーソー ページ32
「クソッ」ロンドンで目も当てられない失敗だった。グランド・ホテルを出てすぐ伊沢和男は尾行の気配に気づいて顔をしかめる。デイリー・テレグラフ社に前で足を止めてショーウィンドーに陳列された新聞に目を向けガラス越しに尾行者を確認する。やっぱりだ、素人ではない。伊沢は別れたばかりの取引相手を思い出し小さく舌打ちをした。
苛立ちながらも伊沢は新聞から顔を上げ、フリート街を歩き出した。道化の王冠亭に立ち寄りコーヒーを一杯注文して窓際の席で、通りを観察した。コーヒーを飲み干して、売店でイヴニング・スタンダードを一部買い。急に何か思い出したかのように来合わせたバスに乗車した。夕方の駅前渋滞に捕まるとすぐにバスを降りて地下鉄で一駅分の切符を買い、改札を抜けホームに入ってきた列車に乗る。発車寸前で列車を降りて反対側のホームに移動し逆向きの列車でチャリング・クロス駅へ向かった。駅前広場でタクシーを捕まえ一旦は別のところで場所で降りさらにタクシーを二台乗り換えてようやく目的の二ブロック離れた場所に向かった。
オックスフォード・ストリートに面した建物の前で足を止め、表看板に目を向ける。前田倫敦写真館。一五年前、日本人の前田弥太郎がロンドンで開いた。だが、前田氏も年波には勝てず。そこで、甥の伊沢和男に白羽の矢が立ったのだ。伊沢は慎重にドアを確認した。外出する際に伊沢が仕掛けたまま残っている。伊沢がスイッチに触れる寸前に部屋の明かりが一斉に点灯した。「見つけた」男が低い声で無表情に言った。「君をスパイ容疑で逮捕する」伊沢はゆっくりと手を上げ、抵抗がないことを示した。
車に乗せられてロンドン市内を抜け、三十分ほど車を走られた後に唐突に止まった。建物に入ると、入念に身体検査を受け目隠しに手錠をかけられ部屋に連れ込まれた。パイプ椅子に座らされて身体を押さえつけられる。「何かの間違いだ、お願いです。家に帰してください」目隠しを取られると机の上のライトが強い光を発し顔を背けたくなった。頭上から男の声がした。「残念ながら貴様が日本陸軍の極秘スパイだということは既にばれている」その言葉に「この僕がスパイ。一体何の冗談ですか。僕はただの写真家ですよ。嘘だと言うのなら伯父に聞いてください」伊沢が訴える。「なるほど、それは名案だ」男はだが、と続けた。「我々はもっと気の効いた人物から、君に関する証言を得ている」
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カナリアナ(プロフ) - エルモさん:仲間ですね！！自己満足になってしまうんですが、小説も頑張っていこうと思います。読んでくれてありがとうございます！！ (2019年12月9日 21時) (
レス) id: ddfa994d58 (このIDを非表示/違反報告)
エルモ - ジョカゲ好きです！！ (2019年12月9日 20時) (レス) id: 9cee2cc714 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カナリアナ | 作成日時：2018年12月12日 21時
