30枚目 真実の口 ページ30
翌日の午後神永の手もとには一冊の洋書が置かれていた。ふと、昼間の光景が過ぎる。「今から別の経歴を渡す、頭に叩き込め」密室には一脚の椅子のみ。そこにかける男。七人の男女が男を囲むように立っていた。尋問役に初老の男性。出された腕に打ち込まれる液体が、蜘蛛の糸ほど細い筒から血管を通り体内へ入る。五分ほど経っただろうか。
この部屋には時計がないため、正確な時間は分からない。太陽の昇る昼でありながらも、部屋には小窓が一つのみで、それすらもカーテンで外部を仕切られている。首を垂らし意識が落ちた様に椅子に座っている。「貴様の名前を言え」ずっしりと響く声。「......横田、孝......四郎」意識はあるのか質問には答えてくれた。「貴様は、日本国のスパイだな」声が張り上げられる。「......違う」混濁する意識の中で開かれる会話。「嘘をつけ、貴様がスパイだという証拠が挙がっているんだ」腹に響く、威圧的な声だった素人が聞かされればたちまち竦み上がってしまうだろう。
「......本当に、知りません......」痺れを切らした初老が「おい、水をかけろ」と部下に命ずる。初老に指示を飛ばされた長身の彼が水を掛ける。否、あれは掛けるといいうよりも陸地で水に沈めていると表現した方が適切だろう。顔色も青白く、初夏であるのに身体は冷えているだろう。「貴様、言う気になったか」再度同じ質問が繰り返される。「本当に......知らないんだ」いくら聞いても同じ答えだった。「ほう、そうか」突如、初老に腕を引かれて私の身体がよろめく。「では貴様が嘘を言い続けるならば嘘を吐くごとにこいつを一発殴ろう」
こんな危機的状況でも私の意識は微睡に落ちている。「やめろ」制限時間が来た薬が切れたのだ。それに......ああ、忘れていた。私の経歴は彼の妻、だったな。「こいつも縛れ」色白な男が私を椅子に縛りつけ、腕に手錠をかけられる。私も抵抗を始める。流石に私にまで追加で自白剤を投与しないとは思うが。そう、願いたい。「彼は無実です。信じて」スパイを疑われた夫を庇う。「彼女を解放してください」必死に私を擁護する台詞を繋ぐ彼。「ならば、真実を話すことだなもう一度問う、貴様は日本国のスパイだな」今にも打たれそうな女を見ても真実を伝える。「......僕は、......違う」一撃の打撃音と女の悲鳴が手のひらをかざして指示を飛ばす初老の背後でこだます。
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カナリアナ(プロフ) - エルモさん:仲間ですね！！自己満足になってしまうんですが、小説も頑張っていこうと思います。読んでくれてありがとうございます！！ (2019年12月9日 21時) (
レス) id: ddfa994d58 (このIDを非表示/違反報告)
エルモ - ジョカゲ好きです！！ (2019年12月9日 20時) (レス) id: 9cee2cc714 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カナリアナ | 作成日時：2018年12月12日 21時
