24枚目 ページ24
「見送らせて」小田切は驚いた顔をしていた。「君が奴ら意外と関わりたがるなんてな。それに俺は今、軍人だ」確かに機関生として接していた時でさえ、小田切と私はあまり関わりのあったとは言えない間柄だったのを覚えている。「あら、いけない」ここで会話を止めて去ろうとする小田切に笑ってみせる。「じゃあ、そんな軍人さんひとつだけ聞かせて」今ならあの事を聞いても答えてくれるだろうと思い。小田切に一つだけ問う。
「どうして、佐久間さんにこのポーカーはイカサマだ。って教えてあげた」小田切からしてみればあの場にいなかったAに聞かれるとは思わない質問だった。専ら、誰かが話しているのを聞いたのだろう。「自分でもわからない。だが、相手が、佐久間さんが軍人だったからかもしれん。」Aは小田切の答えに納得はいかなかった。「そういうものなのかしら」元軍人には弄ばれる軍人の気持ちが分かったのかもしれない。同情したのだろうか。
もしも、あの場面で小田切が佐久間さんに種明かしをしなければ、機関生は佐久間さんが気付くまでポーカーと称して遊び続けていただろう。それは想像に難く無い。小田切は軍人として忠実な佐久間を見て、昔の部下を思い出したのだろうか。それとも、D機関で浮いている佐久間の姿が以前の軍人時代の自分の姿に重なって見えたのだろうか。「ね、小田切。私と契約しない」唐突に聞いてみた。感情を隠す事を敢えてしないのか、これも小田切のフェイクなのかAには分からないが、乗り気ではないのが目に見えた。しかしどうせ己は北支で死ぬ身だとでも思ったのだろう。小田切はAの持ち出した約束事を一つ聞こうと申し出てくれた。
「じゃあ、約束して」そう言って交わした口約束を本気にして無いのか。「俺が北支でも死に損なったら、この約束を果たそう」なんて言って小田切はD機関とAの前から踵を返して去って行った。それは一九三九年、昭和十四年の春の頃。散ってゆく桜と共に小田切の後ろ姿が大東亜文化協曾からゆっくりと離れてゆく。日本が誇る国家でもある桜。桜の花言葉は、精神美、優雅な女性、純血。日本ではその散り際ですら情趣を感じさせるものになる桜は、西洋に渡ると「私を忘れないで」なんて言うなんとも女々しい花言葉に変わるわけだが。今日の門出にはふさわしかろう。さようなら、小田切。
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カナリアナ(プロフ) - エルモさん:仲間ですね！！自己満足になってしまうんですが、小説も頑張っていこうと思います。読んでくれてありがとうございます！！ (2019年12月9日 21時) (
レス) id: ddfa994d58 (このIDを非表示/違反報告)
エルモ - ジョカゲ好きです！！ (2019年12月9日 20時) (レス) id: 9cee2cc714 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カナリアナ | 作成日時：2018年12月12日 21時
