16枚目 サモトラケのミケ ページ16
Aが住み込みを始めて数週間が経った。機関生のAが陸軍御用達の料亭である花菱に住み込みで勤めている訳は、結城中佐からの指示だ。親日ぶり惜しみなく発揮するジョン・ゴードンを米国と日本の二重スパイに仕立て上げる目的で今回の任務はジョン・ゴードンがスパイであるという証拠を掴むことだ。
ゴードン氏が陸軍の極秘書類を持っていることを、わざわざ暴いてご丁寧に憲兵に差し出すなどと言う直接的なことはしない。結城中佐はあくまで陸軍に動いてもらう予定だ。その為にAは武藤大佐のシガレットケースを懐から抜き取り、隣の部屋で飲んでいる結城中佐が通る廊下に置いておく。もちろん武藤大佐のお酌をしながら隣の部屋にいる結城中佐に聞こえる様に関連する話題を振ることも忘れない。
「あなたはんは、お偉い方やって言ってはりましたのうちも聞きました。前に来てはりましたお客はんもすごい秘密の書類をあなたはんが管理してはるって、その秘密の書類には何が書かれてはるんですか」別に陸軍の機密書類の内容なんか知りたくもないが、その大事な機密文書とやらをきちんと書斎の引き出しにでも保管してあるのかを聞き出すために話題を振る。相手も流石に陸軍のお偉いさんなので直ぐには口を割らない。話を小出しにする武藤大佐に教えて欲しいと懇願するふりをしながら聞き出す。「もう、意地悪やわ。私があなたはんのお屋敷に入りはって探して見せます」
その言葉に武藤は酒を飲んで良い気になったのか「いいや。君には絶対に見つからない。俺にも探せないくらいだからなあ」と呑気に話していた。これでわかった。あの書類は武藤が血眼になって探している最中だと。そのことさえ分かればもうこいつは用無しだ。さっさと酔わせて帰ってもらおう。佐久間さんは私の事をまだ黙っているらしいので、こちらとしては顔がバレていない事を嬉しく思う。長々と居座られて時間を食ったので、嫌がらせとして酒をしこたま飲ませて帰してやった。明日が二日酔いだろうが金欠だろうがこちらに関係はない。佐久間さんが八つ当たりに合わないことを願おう。
花菱での気が大きくなって話した事を後になって焦るはずだ。終いには何が明暗なのかこちらに責任を押し付け始めるに違いない。頭の中が透け透けなのは、幼い頃から軍人として育て上げられた賜物だろうか。上から下まで同じ思想の塊なやつらだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 36人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
カナリアナ(プロフ) - エルモさん:仲間ですね！！自己満足になってしまうんですが、小説も頑張っていこうと思います。読んでくれてありがとうございます！！ (2019年12月9日 21時) (
レス) id: ddfa994d58 (このIDを非表示/違反報告)
エルモ - ジョカゲ好きです！！ (2019年12月9日 20時) (レス) id: 9cee2cc714 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：カナリアナ | 作成日時：2018年12月12日 21時
