14枚目 ページ14
やはりD機関は軍内部に存在しながらも軍人である佐久間とは異なる教育理念の元に集められた集団だと今日の出来事でありありと思い知った。参謀本部に着くまでの間に思い頭で考える。武藤大佐が自ら憲兵隊を率いてゴードン邸を捜索したという証拠はない。佐久間は大東亜文化協曾の宿舎を見上げながら思う。だが、そうだったとすれば暗号書を見つけることが出来ない事に動揺しただろう。
武藤大佐自らの失態が公になればこれまでに築き上げてきた自分の経歴に傷がつく今後の出世は見込めなくなる。そこで思いついたのだろう。自分の失敗を隠蔽するためには、その上に同じ失態を塗り重ねてしまえばいい。誰かにもう一度。同じ失敗を繰り返させれば良いのだ。それにしても結城中佐はなぜ、武藤大佐がゴードン邸に乗り込んだことを知り得た。大佐自身はあの失敗をひた隠しにしていたはず。つまり結城中佐がそれを知ることが出来たのは武藤大佐が捜査した日の夜しかありえない。
佐久間の頭に一つの可能性が生まれた。参謀本部に呼びつけられて、ゴードン氏に関する調査の命令を請けたあの日、武藤大佐は明らかに二日酔いだった。佐久間は歩道で立ち止まりもう一度考える。先程の三好の「奮発して料亭にでも。」あの発言が脳裏をかすめる。するとすぐに佐久間は料亭である花菱へと足を向けた。花菱の女将は髪を伸ばし背広を着る佐久間に驚いていた。軍人だった頃の短く刈り込まれた頭と今の姿は異なる。
女将に問題の武藤大佐について尋ねる。「ええ、来てはってましたよ。えらい、酔ってはりましたし覚えてます」続けて一本の藁に縋る思いで問う。「何か、言っていませんでしたか」しばらく考えて「えーっと、何か話してはったような。あ、そのお客さんが帰った後、タバコの忘れ物があったんです。今から会うのなら、ついでに届けてもろへんやろか」そう言って女将からシガレットケースを渡された。落し物のシガレットケースを受け取り、ふとある事が頭に浮かんだ。
パズルのピースを当てはめる様な浮き足だった感覚に、この疑問が結城中佐がどうして武藤大佐が家宅捜索に失敗していることを知っていたのかと言う理由になるのならばと参謀本部の調査室で調べものをする。結果は武藤大佐、花菱の女将、佐久間の指紋が検出された。それは、明らかに事のなりからは不自然であった。それを結城を前にして言う。「義手だったのですね」
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カナリアナ(プロフ) - エルモさん:仲間ですね!!自己満足になってしまうんですが、小説も頑張っていこうと思います。読んでくれてありがとうございます!! (2019年12月9日 21時) (レス) id: ddfa994d58 (このIDを非表示/違反報告)
エルモ - ジョカゲ好きです!! (2019年12月9日 20時) (レス) id: 9cee2cc714 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:カナリアナ | 作成日時:2018年12月12日 21時