13枚目 ページ13
どちらに転んでも機関生の手のひらで弄ばれて終わるゲームだったのだ。それに気づいたのと同時に安堵と怒りが湧き上がる。その感覚は佐久間の常識を根から壊すのに十分な感情だった。しかし今の佐久間には憲兵の背を見る事しか出来ない。
「Stop。stop it。」(止まりなさい。)彼らを組織した結城中佐には自分で現場を見ずとも「Hey. Don't touch that.」(やめろ。それに手で触れるな。)どこで何があったのかを理解することができた。「一つお聞きしたい事があります」大東亜文化協曾に戻った後佐久間は結城中佐に尋ねた。「事前に本物の憲兵隊がゴードン邸を家宅捜索していたことを知っていたのですか」
結城中佐に疑問をぶつける。「なぜ、そう思う」まるで答えが決まっている質問をされている気分だと思った。「常々。スパイとは見えない存在だと仰っている中佐が、わざわざ偽の憲兵を装って白昼堂々乗り込ませたのはゴードンの油断を誘うためです。憲兵なら今度も大丈夫だと」窓辺に写る結城中佐の口元は笑みを浮かべている。それはまるで悪魔、魔王、地獄の使者の様であった。
「失礼します」ドアが軋みながら結城中佐の代わりに挨拶を返す。部屋を出るとすぐ、壁にもたれ赤い唇がほんの少し弧を描いている。姿を確認すると佐久間の方から声をかける。「三好」お決まりのやり取りだ。「これから参謀本部ですかなあの大佐が結果を聞いたらさぞ、驚くでしょうね」高らかに三好が鼻を鳴らす。「俺を笑いにきたのか」先程のゲームを思い出して声が刺々しくなる。
「いえ、少し見直しましたよ。軍人の佐久間さんには、気づけないと思っていたので」憲兵の時とはまた違う。読み取れない表情だった。「それよりこれから皆で街に出るんですが良かったら一緒にどうですか。奮発して料亭にでも」誘いに応える代わりに疑問を問う。「あのときもなぜ」途中で途切れた文に三好が何かという目線を向ける。「俺を誘った」その言葉が出なかった。
否、そもそも三好は俺を誘ったのだろうか。諦めて次の言葉を探す。「いや、忘れてくれ。折角だが遠慮するよ。また誘ってくれ」お決まりの流れだった。「そうですか」佐久間が三好の横を通りすぎる。廊下で別れてからというもの機関生の姿は見ていない。三好の言葉通り街に出ているのだろう。化け物の片鱗を垣間見た佐久間の心情には到底追いつけない感覚だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 36人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
カナリアナ(プロフ) - エルモさん:仲間ですね！！自己満足になってしまうんですが、小説も頑張っていこうと思います。読んでくれてありがとうございます！！ (2019年12月9日 21時) (
レス) id: ddfa994d58 (このIDを非表示/違反報告)
エルモ - ジョカゲ好きです！！ (2019年12月9日 20時) (レス) id: 9cee2cc714 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：カナリアナ | 作成日時：2018年12月12日 21時
