佐久間くん (ページ33)

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9 月ページ33

You side

今日の大ちゃんは家に来た時から様子がおかしかった

なんだかずっと空元気で、笑顔もなんだかぎこちない

毎年恒例の春の舞台があるから当分は会えなくなると言われていたのに、突然「会いに行ってもいい？顔みたらすぐ帰るから」と連絡がきたのだ
何かがおかしいというのはさすがの私でも分かった「大ちゃんさえよければお泊まりしていかない？」と返信して今に至る

「Aちゃーん」
「はーい？」

大ちゃんがいつも通りを装うか私も出来るだけいつも通りを心がける

夜ご飯を食べ終えて、洗いものをしているとテレビを見ていた大ちゃんに名前を呼ばれる

「洗い物ひと段落ついたらサクマさんのとこきてー」
「わかった、すぐ終わらせるね」

いつもなら洗い物をしている私の周りをちょこまかと動き回っている大ちゃんとは比べ物にならないくらい静かだ

すぐに洗い物を済ませて「お待たせ」と向かう

「やーっときた」
「ふふ、ごめんね遅くなっちゃった」
「んーん、いいの。洗い物ありがとね」
「全然、気にしないで」

やっぱり元気がない
大ちゃんのまあるくて大きな瞳がゆらゆら揺れている

「…サクマさんが元気ないの、何も聞かずにいつも通りしてくれてありがとうね」
「そんなこと…、わたしこのくらいしか出来なくて…」
「んや、そっちのがいい…ね、ぎゅってしていい？」
「いいよ」

大ちゃんにぎゅっと抱きつかれる
少し痛いくらいだけどきっとこれは大ちゃんからのSOSだ

「今からサクマさんかっこわるいこというけど嫌いにならないでね」
「なるわけないでしょ？どんな大ちゃんでもだいすきだよ」

ほんの少し抱きつかれる力が強くなった気がした
わたしもそれに答えるように背中に腕を回す

「久しぶりにファンの子達に会えるのはすっげえ嬉しいの」
「うん」
「でも、…それと同じくらいすっごい怖い」
「うん」
「稽古ももう追い込みだし、もう少しで本番が始まるのも分かってる…だけど失敗したらどうしたらいい？久しぶりに俺らのこと見たファンの子達が幻滅したらどうしたらいい？」

何も言えなかった、なんて声をかけたらいいか分からなかった

この人は、大ちゃんは、アイドルだけどひとりの人間だ
たくさんのファンの人たちの期待を背負っている
わたしなんかが想像出来ないくらいきっとずっと大ちゃんはもがいている