【短編集】今始まる物語。【募集企画】 (ページ13)

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「全く……そんなにがっかりすることでもないだろう？慧も年頃だし、色々勉強になるだろうしな。
　それに、女嫌いを治す良い機会でもある。恋愛の一つや二つくらい、楽しんできたらどうだ？」

「うう〜〜……」

　苦笑いしながら笑う父。
　夕飯の最中だというのに食堂テーブルに突っ伏したボクを母が、行儀悪いでしょ、と軽く頭を叩いた。
　恋愛なんてしたくないし、そもそもする必要がボクには無いと思う。独身貫くつもりだったのに……。

「……まあ、悪いことじゃないでしょう。何事も経験よ。行ってきなさい、慧」

「お母さんまで……」

　母の言葉に、有無を言わさない圧が含まれていた。

「はあ……わかったよ」

　ボクが渋々了解すると、父が頷き言った。

「＊月＊日か……今日何日だ？って、明後日じゃないか！」

「ええっ？じゃあ急いで準備しないとじゃない。そういや昨日、一昨日とポスト確認してなかったわね……」

　……果たして、うちの家はこの人達だけで大丈夫なのだろうか。
　ズズ……と味噌汁を啜りながら、ボクはそんな事を考えていたのだった。

　＊＊＊

「おお〜い慧！そろそろ車出すぞ〜！」

「はあーい、今行くー！」

　出発ギリギリまで読んでいた植物図鑑をリュックサックの一番取り出しやすい場所にしまい、階段を駆け降りて、玄関で靴を履いていると、母がボクに話しかける。

「……元気でね。家じゃないんだから、くれぐれも徹夜なんてしないように。他の子──女の子に冷たい態度取ってあげないのよ。それから……」

「母さん。気持ちはわかるが──」

　ボクを心配してくれているのであろう母親を、父が止める。

「そうね。…………行ってらっしゃい、慧」

「……。
　行ってきます、お母さん」

　母親に返事を返し、車に乗り込んだ。

　その高校はとにかく広かった。
　国立？とかそういうレベルで。

「──じゃ。元気でな」

「……うん」

　父に、遠回しにではあるがさよならを告げた。
　──今日から、ここで生活しなきゃならないのか……。

　園芸部とかはあるのだろうか。男女比はどれくらいなのか。ボクのことを、男として認識してくれる人はいるだろうか。こんなとこで上手くやって行けんのか──。

　頭に浮かぶは不安ばかり。
　しかし、ここでの生活はもう決まったこと……悩んでも仕方ない、と割り切り、正門を潜った。

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