君に会うため【地縛少年花子くん】 (ページ35)

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家庭科実習ページ35

「わあ、Aちゃん、上手だね」
「そう？ありがと」

テキパキと手を動かす私を見て葵ちゃんが褒めてくれた。やったぜ。
視界の端でちらつく寧々ちゃんたちを見ないようにしながらお菓子作りを進めていく。

いつも作ってるの？と問い掛ける葵ちゃんに前にドーナツは作ったけど、と答える。

「でもそれくらいかなあ。お菓子作りってあんまり得意じゃないんだよね」
「何でドーナツ？」
「もしかして、好きな子にあげるためだったりして！」

キャア、と同じクラスの女の子が会話に入ってきて黄色い声を挙げた。
いいね、すてき、だれ、なんて矢継ぎ早に投げられる質問に思わず苦笑が漏れる。

「そんなじゃないよ、ただの友達」
「えー、でも、ただの友達に苦手なお菓子作りするかなあ？」

頬に手をあてにこにこと笑いながらそう告げた葵ちゃん。
あれ、実は葵ちゃんってかなりドS？そんなとこも可愛いね。

「あ、そろそろいい具合じゃない？」

カップケーキを取り出して無理矢理話題を中断させる。
甘い香りが周囲に広がった。

ふと視線を感じて目をやる。
じっとこっちを見る花子くんと目があった。

「ねえ、ツルガ」

ふわりと宙に浮いて近寄ってくる花子くん。
私はそっと教室の隅へと移動した。

「ツルガ、ドーナツ作ったことあるの？」
「あるよ」

誰かにあげたの？と問うてくる花子くん。
忘れてって言ったのになあ、なんて言葉は呑み込んで。

「うん、大切な、友達」
「もう、会わないの？」
「会わないし会えないよ」

だって君は、もう普くんじゃないから。
だって私は、いつかは君の前からも消えちゃうから。

「でも、もしかしたら、明日か、来週か、数十年後か。もう一度、会える日が来るかもしれないね」

きっと私は、何も知らないふりをするけど。
そう続けて、言外にだから君も知らないふりをして、と伝えて。

花子くんは分かっているのか、いないのか、ふぅん、と小さく相槌を打った。