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オムライス ページ20
A、と。
聞き慣れたはずの声が私を呼ぶ。
「なあに、お母さん」
「夕飯は何が食べたい？」
オムライス、と小さく答えて。
「よし、お母さん頑張っちゃうね」
にっこりと笑った“お母さん”はとても綺麗で。
その手際はとても良くて。
――違う。
お母さんは、料理が苦手だった。
目分量でしか量らなくて、無いものは別のものを使って、時間なんて気にしなくて。
――だから、大半が失敗で。
味が、濃くて。
「A、出来たわよ」
早く食べましょう、と笑う“お母さん”にいただきます、と伝えた。
「美味しいよ」
ほんとうに、おいしい。
そう呟いて、目頭が熱くなって。
「良かった」
嬉しい、と続ける“お母さん”はずっと笑みを絶やさない。
――会いたいよ、お母さん。
私の生きた場所は、ここじゃないと言われているようだった。
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作者名：八重 | 作成日時：2020年6月24日 20時
