君に会うため【地縛少年花子くん】 (ページ19)

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ドーナツページ19

放課後。
特に残る予定もなかった私は真っ直ぐに靴箱へと向かう。

賑やかな生徒達の声の中で先輩、と聞き慣れた声に呼び止められる。
立ち止まって振り返ると光くんが小さく駆けてきていた。

「先輩、あの、えーっと……」
「ん？」

あー、とか、うー、とか言いながら言葉を探す光くん。
何かあったっけ、なんて首を傾げて。あ、と声を漏らした。

「ドーナツか」
「えっ」

何で知ってるんですか、なんて驚く光くんに先輩だからね、なんて適当に答える。

「八尋さんを元気付けるんだよね」

花子くんは任せて、と言いながら靴箱を後にする。

「良いんすか？」
「もち。その代わり、八尋さんはよろしくね」

にひ、と口元を歪めて光くんの肩を軽く叩いた。
イケメン光くんも見たいけどしょうがない。

＊＊＊

光くんと別れて旧校舎三階の女子トイレへと向かう。花子くん、と顔を覗かせればいらっしゃい、と迎え入れられた。

「今日は八尋さんと光くんは用事があるので私が掃除します」

文句は聞きません、と掃除準備に取り掛かる。
花子くんはえ、なんで、と不思議そうな声を上げた。

「デート……だったりして」

ニヒルな笑みを浮かべてそう言うと花子くんはデート！と衝撃を受けたように繰り返す。

「ヤシロと少年が？」
「八尋さんと光くんが」

ええー、なんて言いながらトイレを出ていこうとする花子くん。

「もっけちゃん、捕まえろ」
「つかまえろ」
「ころせ」
「あめくれ」

わあわあと花子くんに群がるもっけちゃん。可愛い。ほかほかだ。
お礼にと飴を渡すと美味しそうに食べ始めた。可愛い。

「ツルガ、いつの間に勿怪と仲良くなったの？」
「ちまちま飴あげてたらいつの間にか」

ね、ともっけちゃんに同意を求める。
いいやつ。と返ってきたので満足です。

「花子くん」

ん？と私を見る花子くんの横顔が夕日に照らされる。少しだけ向こう側が見えるその姿に、ああ死んでるんだなあ、なんて。

「いつか、私にも」

話してくれたら、なんて。言いかけた言葉を呑み込んで。

「願い、叶えてね」
「いつでも良いよ」

それが俺の仕事だからね、と言って笑う花子くんにありがと、と伝えた。

きっと、私の願いは、叶わないけど。