君には届かない 〜前編〜 ページ37
目覚ましがなる前に目が覚めた。
煩い蝉の鳴き声の間にチリン、と風鈴がなった。
寝起きで回らない頭で暑い、と考える。
部屋に入り込む風は生暖かい。
二度寝をする気にもなれずに起き上がる。
ダラダラと準備をして家を出た。
強い日差しに溶けてしまいそうだ。
目の上に手で影を作って、溜め息を吐いた。
今日は彼女と会うんだ、しっかりしろ。
そう自分に言い聞かせて待ち合わせ場所へ向かう。
照り付ける太陽から逃れるように日陰に飛び込んで彼女を待つ。
立っているだけで流れる汗に、ベッタリと貼り付くシャツに、不快感を覚える。
思わず顔をしかめた。
嗚呼、ダメだ。こんな顔で彼女には会えない。
気分を直すように自販機で冷たいお茶を買う。
ゴクリと喉を鳴らしてそれを流し込んだ。
体の内側から冷えていくような感覚に陥って、ほうっと息を吐いた。
力が抜けて、きっともう顰めっ面はしていない。
指で眉間をつついて口元に笑みを作って見せた。大丈夫。
これで漸く、彼女に会う準備ができた。
「わー！早いね！」反射的に振り返る。
白の柔らかいワンピースを着た彼女がそこに立っていた。
控え目なメイクが、アクセントのように取り入れられた小物が、彼女を引き立てる。
綺麗だ。
思わず口を突く。
ありがとう、と照れたようにはにかむ彼女に胸が高鳴る。
普段は絶対に見せない彼女の笑顔。
普段はクールだと言われている彼女の一面。
そんな彼女を知るのは、自分だけだという優越感。
いつまでもそれに浸っていたくて、皆が知らないことに苛立ちを覚えて。
彼女はこんなにも可愛いのだと言い触らしたくて、でも誰にも知られたくなくて。
そんな矛盾を抱える。
行こう、と言う彼女に手を引かれて歩き出す。
少し駆け気味な彼女にそんなに急がなくても、と言いつつも自身の足も速くなっていることに気付いて苦笑を漏らす。
なんだかんだ言って、自分も彼女と同じなのだ。
今日というこの日が楽しみで、彼女といる時間を少しでも有意義なものにしたいと願っている。
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八重(プロフ) - カシオペアさん» ありがとうございます！！まさかこっちまで読んで頂けるとは……その上コメントまで……本当に感謝します(*/□＼*)上手なんて、恐縮です……(でも嬉しい)頑張ります！ありがとうございます！本当に！！！ (2017年7月3日 21時) (
レス) id: e19e44ac0b (このIDを非表示/違反報告)
カシオペア - ヒロアカの方を読んだので、こちらものぞいてみましたが本当に文を書くのが上手なんですね。一つ一つが短くて読みやすいです。更新、頑張ってください！ (2017年7月3日 20時) (レス) id: 972c361b83 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：八重 | 作成日時：2017年4月24日 2時
