少女の言葉 ページ23
「おい、ガキンチョ。もう夜も深ぇ、さっさと寝ちまいな」
すっかり夜も更けて、焚き火も小さくなっていた。まだ起きれるよ、と言おうとしたが、口を開いた時に出たのはくしゃみだった。背筋に張り付く寒気に、そういえば体調を悪くしていたことを思い出す。
「ほれ見ろ。早く治したきゃよく寝るこった」
『……わかったよ……』
しっしっ、と手であしらわれたのはムカついたが、全くの正論なので大人しく洞窟の方に向かう。
ただ、ふと、足を止めた。
『ねぇ、リゲル』
「ん？」
これを言うかは、正直迷った。彼にとっては全く必要ない言葉かもしれないから。
それでも今言わなければ、次はないような、そんなざわめきが胸の中にあったのだ。
『私、応援するよ、リゲルの夢。世界一楽しい詩、見つかるといいね』
リゲルは目をぱちくりさせ、やがて「なっ」と嬉しいんだか恥ずかしいんだかよく分からない顔をした。完全に不意打ちだったらしい。成人男性が子供にそんな顔をするのはあんまりよろしくない気もするが。
「な、なんだお前、改まって……。言っとくが、島を出たらお前にも手伝ってもらうからな！あとそういうのはおれが酔っ払ってる時に言え！！」
『はいはい。おやすみなさーい』
一本取ってやったり。
洞窟の中で丸くなって眠りにつこうとするが、口角は下がりそうになかった。
洞窟の中に去っていく少女の背を見送り、リゲルは顔の熱を逃すように息をついて、焚き火に向き直った。
パチパチと燃える焚き火を絶やさぬよう、取っておいた木を添える。添えた木は初めは異物のように焚き火に被さっていたものの、炎は手を伸ばし、すぐにその身の中に木を取り込んでしまった。
「……夢、か…」
夢の価値は、人によって違う。それを称えるものもいるし、蔑むものも、ほとんど興味すらないものもいる。幾多の島を渡り歩いてきたリゲルだからこそ、それはどうしても顕著だった。
(だが、あの子は……)
あの少女にとっての夢の価値は、恐らくリゲルと変わらない。違うのは、少女が自分を押し潰していることだ。
あの子は夢を抱くということを、自分が望んで良いものではないと決めつけている。それがリゲルはなんとも気に食わなかった。
「ククク…いつかおれが世界一楽しい詩を見つければ、あいつも分かるはずさ…。夢が人を選ぶんじゃない、人が夢を選ぶんだってな……」
夜はまだ明けない。しかし、闇の中だからこそ、光は特別輝くのだ。
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AG2(プロフ) - うぇさん» ありがとうございます！可哀想は可愛いの裏返しですからね❤︎ (2022年8月30日 13時) (
レス) id: 824802fbf5 (このIDを非表示/違反報告)
うぇ - 主人公…、強く生きろよ…いや好きですけど好き！！！ (2022年8月29日 17時) (レス) @page49 id: c9b27d8eb7 (このIDを非表示/違反報告)
AG2(プロフ) - ニアさん» ありがとうございます！やっぱり幸せなだけじゃ物足りないですよね^ ^これからもじゃんじゃん不幸にしていきます！！ (2022年8月24日 7時) (レス) id: 824802fbf5 (このIDを非表示/違反報告)
ニア - これは主人公が幸せになろうとする度に不幸が襲ってくるパターンのタイプだ……リゲルが死んだところでちょっと泣いちゃった...とても面白くて読みやすい小説でした！！！ (2022年8月23日 23時) (レス) id: 6103ddda9f (このIDを非表示/違反報告)
AG2(プロフ) - おこげさん» ありがとうございます！これからもどんどん主人公を可哀想な目に合わせていきます！頑張ります！ (2022年8月18日 10時) (レス) id: 824802fbf5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ハラマゲオ | 作成日時：2022年8月6日 23時
