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episode3 ページ4

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「お茶をお持ち致しました」
「あぁ、入ってええで」



視線を本から離した彼はその糸目に弧を描いてこちらを見た。要はニコリと笑っているのである。その笑みにどことなく嘘くさいものを感じながらも、私は何も言わずに机の上にお茶とお茶請けを置いた。



「羊羹か。ええなぁ。丁度甘いもん食べたかったんや。おおきに」
「恐縮です」


そして私は扉近くに立つ。先程からの定位置だ。直哉様に何かを命じられる以外はここで立って待つ。めちゃくちゃ暇だが、それ以外にやることも無い。


主は真剣な表情でずっとありとあらゆる文献を読んでいる。それな単に読書をしているということではなく、次期当主候補の1人として呪術のことや禪院家(この家)のことを調べているのだ。休みの日まで、わざわざ。


自らの位に胡座(あぐら)をかかず、こうして高みを目指している姿勢には好感が持てる。それはたとえ、彼が男尊女卑の思考だろうと関係ない。




「なあA」
「はいなんでしょうか」
「Aはどこまで俺についてきてくれる?」
「……?」

主の急な問いかけに思わず首を傾げる。

“どこまで”というのはどういうことだ?

そんな私の様子に直哉様は苦笑した。


「ああ、質問が悪かったなぁ。Aは俺に一生仕えてくれるん?ってことや」

そういうことなら即答できる。

「貴方様が私を側に置いてくださる限り、私は貴方様に仕えていたいと思っております」


この言葉に一切の嘘はなかった。

この言葉を嘘にする気もさらさらなかった。



「そう……」




どことなくほっとした表情になった直哉様に、私も安堵する。少なくともあの回答は間違えではなかった。





だがこの二ヶ月後






私は彼に嘘をついたことになってしまったことになる。




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あい - めちゃめちゃ読んでて楽しかったです!!応援してます! (11月16日 19時) (レス) @page15 id: a6639cd8da (このIDを非表示/違反報告)
jやよ - これからの展開に想像しながら、更新待ってます! (2023年1月3日 10時) (レス) id: 7c8c23da7c (このIDを非表示/違反報告)
名無しの中学生 - 最初から読みました続き楽しみに待っています! (2022年3月7日 18時) (レス) id: 2f57e3c309 (このIDを非表示/違反報告)
ベル(プロフ) - 初めから読みました!!めっちゃ続きが気になります!!更新頑張ってください! (2021年5月24日 15時) (レス) id: 61644e4b7a (このIDを非表示/違反報告)
かめきち - 神ですか?一回読んだだけで大好きです!応援してます (2021年5月6日 22時) (レス) id: d0a08c8863 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:皐月 | 作成日時:2021年2月27日 19時

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