正しい恋の育て方【西谷夕】

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柄にもなく、怖がっていた。
旭さんの攻撃が跳ね返される。どれだけ強力な攻撃を施しても無に帰される。俺は必死に手を伸ばすけれど、なかなか失点を防げない。胸がざわついた。三月のあの日のことがフラッシュバックしてきやがった。


『お前がいくら拾ったってスパイクが決まんなきゃ意味ないんだよ』
『俺に上げたってどうせ決めらんねーよ』
『打ってみなきゃわかんねえだろうが！！』


落ち着け、俺。過去は振り返るな、今目の前のことに集中しろ。そう思ったけれど、治ったはずの古傷はねちっこく疼いた。ちくしょう、ナヨナヨしやがって男らしくねえ。カッコ悪ぃ。

タイムアウトが取られた後も、話を聞きながらも頭の片隅には黒いモヤのようなものが燻っていて気色悪かった。大丈夫だ、旭さんはここにいる。迫り来る不安に奥歯を噛み締めて耐え忍ぶ。

ミーティングが終了してコートに戻っていく。その時の俺はやはり柄にもなくこう思っていた。

……クソ。怖ぇな。


「落ち着け！巻き返せるぞ！」


ギャラリーから激励の声が聞こえてくる。親善試合の時に来てくれた町内会の人だ。隣には、不安そうな顔をした皆川がいた。ハラハラと揺れた瞳と視線が絡み合う。そんな顔すんな、と言いたかったけれど、生憎今の俺にはそんなことは言えなかった。彼女の視線から逃げるようにコートに走っていく。その時だった。


「……頑張れ、烏野！」


耳に届いたのは確かに彼女の声だった。意外によく通る声に驚いて振り向く。大声を上げたからか、顔を真っ赤にして目を見開いているのがちょっとおもしろかった。彼女の精一杯の声援に応え、親指を上げる。


「おう！ありがとな！」


やべえ、怖い、どうしよう。ネガティブムーブは中々払拭されないけれども、いくらか心が軽くなったような気がした。その証拠に、先ほどまで強張っていた体が少し緩んだ。点差は7-15、まだまだ巻き返せる。



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