正しい恋の育て方【西谷夕】

▼18.キューピットって、ガラでもねえけど ページ19

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全授業が終わった後の、放課後。相棒からの熱を出したという連絡に即座に反応し、俺は今現在保健室の椅子に座ってベッドを覗き込んでいた。


「ノヤっさん、大丈夫なんか？急に熱出すってどういうことだよ」
「すまん、龍」


覇気のない顔で明後日の方向を見ながら、そう弱々しく呟くノヤっさん。いつものこいつからすると別人でも憑依したかのようだった。


「……皆川って女となんかあったんか」
「はぁ！？そんっ…いってぇ！」


ノヤっさんはあからさまに動揺して、ベッドの淵に頭をぶつける。やっぱりか、そう思い眉を潜める。顔が耳まで赤いのは、熱のせいということにしておいてやろう。


「………なあ、龍」
「んだよ」
「…これ、たぶん、チエネツってやつなのかもしんねえ」
「知恵熱だぁ？」


ノヤっさんはタオルケットを頭から被り、ダルマのように丸まって、そうなのかもしんねえ、とふわふわした返事を返した。あ゛ー、という汚い呻き声を、俺は黙って聞き流すしかなかった。


「…皆川と、昼休みずっと一緒に居たんだけどよ」
「おう」
「……俺がなんか言うたびにすぐ嬉しそうな顔されて、すげぇくすぐったかった」
「ふーん」
「そんで、なんでバレー選んだんだって聞いたら、下心だ、とか、なんとか」


ついには女子みたいに膝を抱えて、溜息混じりに呟く。


「……あいつ、俺のこと好きなんかなぁ」


吐きそうなくらい甘ったるい空間に耐え切れず、俺は顔を顰めて坊主頭をがりがりと掻いた。初めて女子に熱い視線を向けられて戸惑って、考えすぎて熱を出した。要はそういう話か。俺は重苦しい溜息を吐いた。

なんだよその皆川って女、めちゃくちゃあざといじゃねえか。そんなん、誰だって「脈アリかも？」なんて勘違いするだろ。少年の純粋な心を弄びやがって、やっぱりとんでもねえ女だ。

人の気も知らないで一丁前に悩んでいやがるノヤっさんに、俺は意地悪く言いのけてやる。


「……まあ、そう思っといていいんじゃねえの」
「………はぁ…」
「そんで、お前はどーなんよ」
「へ」
「皆川って女が自分を好きだったとしたら」
「お、俺は」


ノヤっさんが言葉を返そうとした瞬間、ガラッと保健室のドアが開く音がけたたましく鳴り響いた。


「西谷くん、大丈夫！？」


その女は走ったのか、額に汗をかいて、頰を蒸気させ、肩で息をしている。目がでかくてまろい頰の、癖毛の女子。俺は心の中で呟いた。


＿＿＿こいつが皆川Aか。



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