クリエイターシンドローム

＃３　グループ内 ページ8

※土井谷side

「あれ？今日だよな、事務所の人がスタジオに来る日って。」

「ああ。」

YouTube活動を始めて2年が過ぎた頃、
まさかその時にはこんな風になるとは思っていなかった。

昨年の夏に公開した『心霊スポット生活』企画が異例の視聴回数を記録し、
徐々に俺らの存在が世間に広まっていく中で、
恒例となった1週間企画は軒並みヒットを飛ばし、
1年も経たない内に登録者数が30万人も伸びた、その時だった。

―――事務所に所属するかもしれない。

定期的に行っている企画会議の最後に、岩田の口から出た発言だった。

YouTuberの事務所と言えば決まって思い浮かぶのは1つしかない。
まさかそんな大手から？と、
メンバーみんな最初は信じようとしなかったのだが、

岩田の口から出てきた名前はクリエイターに留まらない、
まさかの大手芸能事務所の名前だった。

「嘘だろ！？まじかよ！！」

「こんな嘘つかねぇよ。」

西尾が一人、ものすごい興奮を見せる中で、
至って冷静なのはいつも飯野だ。

「まあ、それだけ大きな事務所に所属できるのであれば、
　今までやりたかった企画にも金銭面で手が届くだろうし、
　詳しい条件を聞けてないから今は判断できないけど、
　前向きに考えてみてもいいんじゃないの？」

「まあな、今度一度先方の担当者と会うことになってるから、
　その時に詳しい条件聞いてこようと思って。」

「ただ、俺が一つ不安なのは、
　これだけ急激に登録者や視聴回数が伸びたタイミングだから、
　そこにつけこんで契約結んでこようとしてんじゃねぇかってこと。
　契約結んだあとは俺らが本当にやりたい企画ができなくなるかもしれない…
　なんてことになるのは絶対に避けたいけどな。」

くそつまらねぇ提供動画とか絶対に作りたくねぇ…
なんて言いながら喫煙所へと飯野は向かった。

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