引き立て役の私だって主人公になりたいとか思ったけど夏終わるし諦めよう。

8.小瀧さんの前では。 ページ8

＊





「瀬良ちゃん」






トントン、と叩かれた肩。

振り向けば、いつでも美しい小瀧さんの顔面が近くにあって。


イヤホンを片方だけ取ると、"さっきの見てたで"って隣に並ぶ。






『さっきの……ああ、あれですか』


「すごい勇気やな。驚いたわ」


『……すごく、腹が立っただけです』






毎回毎回。

あんなに紹介しろだの、隣にいる子よな？って近づかれて、迷惑にも程がある。


大学生にもなって、ガキみたいなことしやがって。


ついカッとなって怒ってしまったけど、まさか小瀧さんに見られてたとは。






『でも、あれはさすがにまずいですよね。たくさんの人に見られたし、相手も無駄なストレスを与えてしまいました』






嘘だ。

本当はあのぐらいでいいって思ってる。

なんなら、もっと言ってやりたかった。



これまで私に近寄り、紹介しろだのなんだの言ってきた男共に

私の怒りを爆発させ、なんなら元友達たちの前でやってやりたかった。




私はお前らの引き立て役で、こんなに頑張ったんだと。

お前の幸せは、私が持ってきたものだと。




でもそんなこと、ただの嫌な奴だから。

こんな美の塊である小瀧さんに言ってしまったら最後、未来はないだろう。



こんなにも美しい方が隣にいるだけでも奇跡なんだから、嘘を固めてまでも本音は隠さなきゃいけない。






「まあ、ええんちゃう？俺も盗み聞きしとったけど、瀬良ちゃんの言葉に間違いはなかったし」


『……でも』


「悪いのは完全にあいつやろ？それでも瀬良ちゃんは自分を責めるん？」






美である上、優しいなんて。



これ以上何も言えなくて、首を横に振ると、満足気に"よし"って笑う。

そしてなぜか携帯を取りだし、"連絡先交換しよ？"ってQRコードを差し出される。






『……私とですか？』


「他に誰がおんねん」


『いやいや、お美しい小瀧さんの携帯に私の連絡先が入るなんて……おこがましいです！』


「じゃあ、俺を豚やと思って？」






ぶひ、っと鼻を人差し指でくいっとあげて、豚ポーズ。



……無理です、なんなら可愛くて逆効果です。

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