引き立て役の私だって主人公になりたいとか思ったけど夏終わるし諦めよう。

30.引き立て役は。 ページ30

＊





……いや、もう溢れた想いは抑えきれないだろう。






『小瀧さん、っ』


「ん、っ、おわ！」






ぎゅっと抱きしめる。

私の体を包み込むように支える小瀧さんは、驚きながらも戸惑ってて、


"これはどういうこと？"ってまだ伝わらない様子。






『好きって言ったら、困りますか』






泣いてる顔は不細工だから、見せたくなかった。

けどちゃんと、顔を見て伝えたかった。



少し見上げて小瀧さんの顔を見れば、ぱあっと顔を明るくさせて、"ほんまに？"って1回、2回、と繰り返す。



私はその度に頷く。






「婚約者は……？」


「その婚約者はここにおんねんけど」


『っ！智洋、』






2人して後ろを向くと、大きな荷物を地面に置く智洋の姿。






『えっと、智洋、』


「言いたいことはわかってるから。無理して言わんくてええよ」


『……っ、でも！』


「ええって。それに、今言われたら……苦しいからさ」






へへ、って笑う智洋の顔は、やっぱりどこか引きつってて。

ちくりと痛んだ胸を抑えながら、

"どこか行くの？"って荷物を指さした。







「ああ、おとんから連絡あってさ。会社継げってうるさいから……タイミングもちょうどええっぽいし、行こうかなって」


『じゃあ、また外国行っちゃうの？もう、会えないの？』


「会おうと思えば会えるで。それに、また遊びに来ると思うしな」


『……そっ、か』






また智洋がいない日が続く。

寂しいな、って思う反面、また新しいところで頑張る智洋を応援したい。



私は小瀧さんから離れて、智洋の近くまで行くと、

今度は智洋をぎゅっと抱きしめた。







「っ、A！？」


『頑張れって気持ち、伝えるためにはこれしかないって思って』


「にしては大胆すぎん……？」


『ちょっとした、エールだから』






最後に力いっぱい抱きしめてから離れると、"おおきに"って好きだった関西弁が返ってきた。







「じゃあ小瀧くん、」


「あ、はい！」


「A、よろしゅうな」


「……絶対、幸せにします。結婚式、絶対呼びます」


『早すぎます。それに、なんか、恥ずかしいです』

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