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61episode ページ14






「ここ、は……」





Aの瞳が、水面を映しながらゆらゆらと揺れていた




黒く轟く波が、大きく盛り上がっては足元を濡らす。
規律正しく繰り返す度、ざぶんという心地よい波の音が耳に入った。






「沖縄じゃねぇし、綺麗でもねぇけど」






海だよ。ここは。

俺とお前が、初めてちゃんとデートした海。





「どうして、私をここに……?」

「さぁ、なんでだろうな……」






なにか思い出してくれるかもとか、淡い期待を抱いてないと言えば嘘になる。
もしかしたら、なんて。




「これが、海……?すごい、ちゃんと来たの、私初めてなんです」

「……そっか」

「はいっ、毎日眺めてただけで……うわぁ、これが、海…」





震えながら手を伸ばし波に触れるAが、まるで12年前と同じで。

あの時俺と行った海は、Aの記憶から抜け落ちたあとどこへ消えてしまったんだろうか……
戻ってきてくれたら、俺はどんなに……







でも、いいんだ、別に。思い出してくれなくても。
お前とまた出会えたことが、忘れられた俺への報いだから。





だからこのまま、Aと一緒に、こいつの最期を……






あと1年しか残されていないAの猶予を、共に……








「うわ、しょっぱい!なんですかこれ、なんでしょっぱいの!?
すごーい!灰谷さん!灰谷さんも舐めてみてくださいよ!」








「……A……」



「ほら早くー!あ、これ私知ってる!わか…ま?でしょ!」








違う、ちょっと、待ってくれ








この笑顔が、あと1年で消えてしまう……?

その時俺は、どんな顔をすればいいんだ……?

頑張ったな。なんて言って、こいつの頭を撫でるのか……?

それとももう温もりのない頬に触れる?冷たい唇に噛み付くのか?








いや、違うだろ





俺は……








「A」

「はい?」








俺は、そんなに綺麗な人間じゃない









「お前、死にたいか?」

「……は、い?なんですか、急に」

「1年後死にたいか死にたくないか、今すぐ選べ」

「そ、そんなの……死にたくなんか、ないですよ…」

「そうか……」







よかった。







「これで覚悟が決まったよ」

「……覚悟……?」

「あぁ」







お前を、天国の階段から突き落とす覚悟

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月華-Ruka-(プロフ) - この小説見つけてぶっ通しで見ちゃいましたっ。めっちゃいい話でした😭😭😭めっちゃ好きですッ♡ (1月19日 1時) (レス) @page17 id: 93316f8902 (このIDを非表示/違反報告)
アップルパイ(プロフ) - もうなんだろう…泣くよねうん…最高の作品をありがとうございます😭 (12月7日 19時) (レス) @page17 id: 0ce3ef1535 (このIDを非表示/違反報告)
華恋(プロフ) - この作品に出会わせてくれたオススメ欄。ありがとうございます。作者様大好きです。お付き合いを前提に結こn() (8月14日 10時) (レス) @page18 id: 92a816f288 (このIDを非表示/違反報告)
りとぽん(プロフ) - 泣いたぁ好きっ (5月28日 11時) (レス) @page16 id: 8b386ed075 (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - こんなに深い話だと思ってなかった、、、!!この作品に出会えて良かったです。言葉では言い表せないくらいに最高でした!!! (2023年2月8日 19時) (レス) @page17 id: dabadaeb3b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ツナ | 作成日時:2022年1月15日 0時

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