検索窓
今日:19 hit、昨日:0 hit、合計:87,113 hit

58episode ページ11





「……え?」





呆然とする俺に、女はベランダの方を指さして言った






「最近は、海を眺めるのが好きなんです。
ほら、病院の目の前にある海」






気がつけば俺は走り出していて





ベランダに飛びてていた







「わっ、なに!?」








そこにはいた。






「び、びっくりしたぁ」






大人びていて、でも前と変わらず温かく笑うAの姿が。







生きてた






生きてたんだ……






ここに、生きて…






「……A……?」







俺は恐る恐る近づき、目の前の彼女が頭の中の偶像ではないか確かめるため、その柔らかい頬に触れる







温かかった






そのまま手を滑らせて首元へ指を添えれば、確かに血管は脈を打っている







人形でも、偶像でもない。





本当に、生きてるAなんだ……








「A……A……!」






俺は咄嗟に、目の前の生きているAを抱きしめた。



まだ夢の中かもしれない。
そんな思いを振り払うように、Aの心臓は確かに動いている。
その鼓動は、今まで聞いたどんな日常の音よりも温かくて眩しくて愛しくて。
この音を聞けるなら俺は、俺は……






「わわっ、泣いてるの!?」






会いたかった

寂しくて寂しくて死にそうだった







「ごめん、A……!」






諦めてごめん、見つけられなくてごめん

Aをいなかったことにしててごめん






「ありがとう……生きててくれて」





ありがとう、手紙をくれて

ありがとう、電話番号を間違えてくれて



おかげで俺は、お前に会えたよ






「あの、大丈夫……?」







Aの声に顔をあげれば、


心配そうな瞳が、しっかりと俺を捉えていた


そしてその目は、段々と丸くなる


まるで、ずっと思い出せなかったものを思い出した時のように。








「もしかして、灰谷、蘭さん……?」







心臓が痛いほど跳ねた

覚えてて、くれたのか……?






祈るような気持ちで、後ろにいる白衣の女に振り向けば







「…………会う人皆に聞いています。他の患者にも…。
彼女はもう、灰谷蘭さんが誰なのかは覚えてないんです。
ただ、灰谷蘭さんの事だけは、ずっと覚えてるんです」






"記憶の彼方にいる灰谷さんを、ずっと誰なのか探しているんです。彼女が12年間で覚えていたことは、たった一つ。灰谷蘭という人物の存在だけ"

59episode→←57episode



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (697 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1804人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

月華-Ruka-(プロフ) - この小説見つけてぶっ通しで見ちゃいましたっ。めっちゃいい話でした😭😭😭めっちゃ好きですッ♡ (1月19日 1時) (レス) @page17 id: 93316f8902 (このIDを非表示/違反報告)
アップルパイ(プロフ) - もうなんだろう…泣くよねうん…最高の作品をありがとうございます😭 (12月7日 19時) (レス) @page17 id: 0ce3ef1535 (このIDを非表示/違反報告)
華恋(プロフ) - この作品に出会わせてくれたオススメ欄。ありがとうございます。作者様大好きです。お付き合いを前提に結こn() (8月14日 10時) (レス) @page18 id: 92a816f288 (このIDを非表示/違反報告)
りとぽん(プロフ) - 泣いたぁ好きっ (5月28日 11時) (レス) @page16 id: 8b386ed075 (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - こんなに深い話だと思ってなかった、、、!!この作品に出会えて良かったです。言葉では言い表せないくらいに最高でした!!! (2023年2月8日 19時) (レス) @page17 id: dabadaeb3b (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ツナ | 作成日時:2022年1月15日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。