ピエローtwoー (ページ9)

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55時間目ページ9

「暑ッぢ～」

何度聞いたか分からない言葉が、また教室内に響く。

３年Ｅ組の校舎はエアコンも扇風機もない。夏の季節にはそれは致命的で、とても暑い。ノートで仰いでも、来るのは生温い微風だ。

「だらしない…夏の暑さは当然の事です！温暖湿潤気候で暮らすのだから諦めなさい。ちなみに先生は放課後には寒帯に逃げます」

「「「ずりぃ！！！！」」」

教卓に突っ伏し黒板に書いた世界地図を指差す殺せんせーは今にも溶けそうだ。
すると、陽菜乃ちゃんがでも、とプール用のカバンを手にする。

「今日プール開きだよねっ！体育の時間が待ち遠しい～」

「いや……そのプールが俺らにとっちゃ地獄なんだよ」

プールは本校舎にしかない。この炎天下の中、山道をわざわざ１ｋｍも往復し行く必要がある。涼みに行くのに、返って逆効果なのだ。

沈む私達を見て、仕方ない、と殺せんせーは声を上げた。

「側の裏山に小さな沢があったでしょう。そこに涼みに行きましょう」

殺せんせーの提案で、全員水着に着替えて裏山へと向かう事になった。

ー

『裏山に沢なんてあったんですね』

「うん、でも足首くらいの深さだったような…」

岩道を歩きながら、前にいる潮田君が答えた。水かけ遊びが出来るだけマシという事だろう。

「そういえばAちゃん、水着に着替えてなかったけど」

カエデちゃんが思い出したように言った。確かに、今来ているのは体操服のみである。小声で言ってくる事から、アレだと思っているのかもしれない。

『私、体のどこか一部でも水に浸かるのがダメなんです』

「それって水恐怖症ってことか？」

近くにいた杉野君が聞いてくる。

『はい。でも水がかかったり、顔や手を洗うのは大丈夫なんです。水の中に体を入れるのが怖くて。だからプールには入れないんです』

「トラウマ？」

赤羽君の言葉に思わずドキッとした。多分、彼は何となく尋ねただけだろう。

『…まぁ…似た様なものです』

私の動揺は、気付かれなかっただろうか。