境界線。弐【時透無一郎】 (ページ38)

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第八十五話ページ38

『～っ痛…』

どこまで飛ばされたか分からない。気付けば辺り一面木々ばかりだった。

──────A！

微かに聞こえた声に顔を上げる。一瞬空耳かと思ったが、また私の名を呼ぶ声が聞こえて来た。

『…むいくん』

立ち上がって服に付いた土を払う。そして声が聞こえる方へ走った。段々と聞こえる声が大きくなっていく。

「…Aっ！…Aー！」

『むいくん！！』

「ーッ…！」

呼び掛ければ弾かれたように此方を向いたむいくん。ホッと息を吐いた後、すぐに私の元に駆け寄って来る。

「A、怪我は？大丈夫？」

『全然大丈夫！それに私は鬼だからすぐに治るよ』

「そう…」

良かった、とむいくんは酷く安心した顔で言葉を紡ぐ。それに少しだけ、ドキリ、と胸が高鳴った。

『それより早く里へ戻ろう！里の皆や炭治郎達が心配だし…！』

「うん、分かってる」

里へ向かうため木々の間を駆けていると、視界の端で子供が襲われているのが目に入った。

『っむいくん！あれ！』

「！」

むいくんも子供の方へ目を向けた。

『助けないと！』

「子供だし助ける優先順位は低い。此処で足を止めてる理由は…」

『そんなの関係ないよ！』

うわぁぁぁ！という叫び声が響き、私は急いで子供の方へ走る。身体を掴んでいる太い腕を蹴りで吹き飛ばした。

『大丈夫？』

「貴方は…！」

顔を見て気付く。小鉄君だ。

『取り敢えず安全な所に…』

「あ、危ない！」

背後を振り向くと、鯉の形をした化け物が再生した腕をまた此方へ伸ばして来ていた。
瞬間、ザンッ！とその腕が斬り落とされる。

「邪魔になるからさっさと逃げてくれない？」

『むいくん…！』