境界線。弐【時透無一郎】 (ページ28)

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第七十五話ページ28

すっかり回復した私は、数日後にむいくんの屋敷に戻れる事になった。

それはすごく嬉しいのだけど………あんな事があった後だからむいくんと２人きりになるのは緊張する。屋敷に向かっている今だって、隣にいるむいくんは一言も話さない。

まともに顔を見て話せる気はしないけど、やっぱり今の状態は寂しいと思ってしまう。

私が鬼じゃなかったら良かったのかな？
鬼にならなければ多分、微妙な関係にはならなかった。

屋敷に着くと懐かしくて思わず声を漏らせば、むいくんがチラリと私を見た。だけどすぐに逸らし、自分の部屋へ行ってしまう。

『……はぁ…』

私も自分の部屋に入り、そのまま寝転ぶ。

…なんでキスしたの。その後こんな風に避けるんだったら最初からしないでよ。

………初めてだったのに…。

『…むいくんの…ばぁーか…』

こんなに…むいくんの事で一杯にさせたのに。

だけど…何となく今の状況は前に私がむいくんに告白した時に似ている。

あの時は、関係が壊れるのが怖くて逃げていた。

…もしかして…。むいくんもそうなのかな…？

身体を起こし部屋を出る。むいくんの部屋の前に行き緊張を解そうと息を吐く。

『…むいくん』

呼びかけるが中からは返事が無い。

『ねぇ、避けないでよ』

そっと障子に手を伸ばす。鍵はかかってないけど、まるで絶対に入る事が出来ない様に境界線を引かれているみたいだ。

『…前にさ…私、むいくんの事、避けてたよね。あの時、むいくんは、こんな気持ち…だったのかなって、反省してる。

でも、前と今で、変わらないのは、むいくんと話したいって…事なの』

返事がない事に怯みそうになるが、今の状況のままは嫌だから私も引くつもりはない。

『…むいくん、お願い、出て来て』

声が震えて、最後の言葉は聞こえなかったかもしれない。