２人の神と天使の話。【イナオリ】 (ページ9)

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神を名乗った者。ページ9

今日の夜は少しばかりひんやりとする。
そう思いながらはぁっと息を吐いた。食事の時間ってやつでみんな別の場所にいるというのに、彼だけは１人でどこか遠くを見つめていた。
最近、この辺によくいるなぁと思っていた人で、どこか私たちと似た雰囲気がある。

思いつめたりしてるのかと思い近くに座り込む。
しかし、その予想に反し彼はとても楽しそうだった。これから起こることに期待するような目の輝きがあった。
人は不思議だ。またそう思った。

彼が前にボールを蹴っていたのを見たことがあった。とても綺麗で迫力のある技も、人々を圧倒する回避技も、洗練されていて努力の色が見て取れた。神を名乗っていた人間がどんなものか見てみたくて、彼を見に行ったつもりなのに彼という人間に、何故か同じものを感じてしまった。

私は天使だ。神の使い、成長途中の見習いだ。人々の努力や境遇や気まぐれで人々の願いや祈りを神に同様の方法で届ける。
根本的に人間とは違うものだ。
私と彼は違う。違うんだとその時嫌なくらいわかっていたのに、信じたくはなかった。
同じなんだと、思いたかった。

「同じなんじゃないか？」

唐突な彼の言葉に私の意識はすぐに現実に引き戻された。誰に向けて言ったんだ。
それだけ言っていなくなってしまった彼の後ろ姿を目で追って、先はどの言葉が自分の答えになった気がして強く強く胸のあたりを押さえた。

同じじゃないことは知ってる。
ただ、私に寄り添ってくれる誰かが欲しくて甘えただけだ。
でもそれはもう貰った。
寄り添える言葉がちゃんとあった。

私は彼の独り言を胸にそっと手を重ねた。

「あなたのもとに、神の幸福が訪れますように」

私は少し軽くなった体を思い切り伸ばして、空を見上げた。星が綺麗ないい夜だった。