第７話 知らない選手 ページ9
せっかく質問に答えたのに良い反応を見せない野坂に、灰崎は唸った。
灰崎自身、先ほどの状況でどうして自分でシュートしようとしなかったのか分からなかった。
ただその時の記憶があまりなく、自分が自分ではなかったかのような気持ち悪さが違和感として灰崎の記憶に染み付いていた。
「野坂さん。ちょっといいですか」
わざわざ逆側のゴールから走ってきた西蔭に野坂は振り返った。目をそらし、やけに気まずそうな表情を浮かべている西蔭が灰崎の方を見た。
灰崎君に聞かれるのが嫌なことなのか。野坂はすぐに察したがあえて何も言わずに西蔭の話をその場で聞いた。
「あの、俺の見間違いかも知れませんが、その、知らない選手が混ざってる気がして」
「知らない選手？」
予想の斜め上をいく発言に流石の野坂も眉間にしわを寄せた。西蔭が冗談を言うような性格ではないことを知っていたからこそ、ここを偵察に来た第三者である線を疑ったのだ。
西蔭にこっそりと場所を教えるように言うと、西蔭は声もなく一箇所を指定した。
野坂の左後ろ。フィールドの外、白線の向こう側に立っているらしい。野坂はそっと振り返りその姿を確認しようとした。
だが、そこに人の姿はない。フィールド内にいる者は自分たちを含めて何人か見えるが、知らない選手など見つからなかった。
「どんな奴だった」
「背の低い、片目の隠れたやつでした。ユニフォームはよく見えませんでしたが、イナズマジャパンのものではないと思います」
「……プレー中もそんな選手は見なかった。一体いつ入ってきた」
「其奴なら彼処にいるじゃねぇか」
灰崎が指を指す方向を野坂はすぐに見た。だがその場所には相変わらず誰もいない。いたような形跡すらもなさそうだった。
「灰崎君、僕で遊んでるの？」
「違ぇよ。てか、普通に立ってんのになんで見えねぇんだよ」
灰崎が、目悪かったか、と野崎に聞こうとするとしばらく動かなかった少年が動いた。灰崎がそちらに目を向けると少年は体をそらし、深く息を吸うと思い切り大きな声を上げた。
『やっほぉぉぉぉおおお！！！』
少年の大きな声は灰崎たちの耳に届き何人かはその唐突さに悲鳴を上げた。
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作者名：匿名の人。 | 作成日時：2019年12月6日 19時
