第１１話 サッカーしようぜ ページ13
体をぐいと伸ばし、ふぅ、と１つ息を吐いたAに氷浦の指と視線が向けられた。
「お前の目的はなんだ」
『目的……？』
「その力があれば他の国や、オリオンに情報を流すことだって容易なはずだ。危険じゃないとも限らない」
そんなことはない、と誰も断言はできなかった。Aは少し悩んだ後、最初から答えは決まっていたようにまっすぐな目で氷浦を見た。
『サッカーがしたい』
それはここにいる全員が思っているごく自然な、熱い感情だった。ただサッカーがしたい。それだけで時間を忘れるくらいボールを追いかけられる。その気持ちは、皆が理解できた。
『その辺のチームじゃない。日本代表の君たちとサッカーがしたかったんだ』
こんな理由じゃ納得してくれないかな、と頭をかき困ったように首を傾ける姿から悪意は感じられない。氷浦は少し考えたようにじっと彼を見つめていたがやがて、疑ってすまない、と目を伏せた。
「おれも少し疑心暗鬼になっていたんだ。気を悪くさせた」
『いやいや、疑うのは仕方ないよ。それより！僕は君たちとサッカーがしたいんだ！とても熱くて楽しい本当のサッカーをね』
Aがそう言うと、円堂が前に進み出てボールを差し出した。輝かしい笑顔が２人の顔に浮かび上がる。
「サッカーしようぜ！」
『はい！』
Aの元気な声が返ってくると円堂は嬉しそうにフィールドに走った。すると突然、どこかの扉が開き、フィールドの方に誰かが歩いてきた。
「円堂、何をしている」
「久道コーチ！」
監督と話をしに行っていた久道が帰ってきたらしく、円堂はすぐにAのことを報告しようとした。だが、風丸に口を塞がれ、もごもごとした言葉にならない言葉を発しただけに終わった。
「な、何するんだよ風丸」
「久道コーチにAのことを言うつもりなんだろ？コーチに見えていない人のことをどうやって説明するんだ」
「あ」
「……取り敢えず事情を説明するのは後だ。今は練習に戻ろう」
風丸の提案は最もだった。だが円堂もその意見に素直に従うには少し複雑で、サッカーがしたいと言う少年を前に自分たちだけでサッカーをやるのはどうなのか、という思いが円堂の中にはあった。
それを察したのかAが、心配しないでよ、と円堂に向き直った。
『僕はみんなの練習を見てるから、頑張って』
ファイト、と拳を握るAに円堂たちは頷いて練習へと戻っていった。
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作者名：匿名の人。 | 作成日時：2019年12月6日 19時
