第１７話 サッカーはすごい ページ19
『な……』
「よかった。ちゃんと戻ってこれたみたいだね」
Aが振り返ると野坂がそこに立っており、自分は野坂の体から抜け出ていた。自分からあの場所を抜け出たわけではない。何かに押し出された。
その衝撃だけが背中に残っていた。
「野坂、なのか？」
「うん。明日人君、灰崎君、どうやら体に入り込まれても抜け出す方法があるみたいだよ」
『うやぁ、凄いや。どうやって抜け出したの？』
さっきの衝撃と関係あると思うけど、とAが呟くと野坂は簡単なことだよ、という前置きをつけてから話し始めた。
「A君が僕の体に入ってる時に、それを押し出すイメージを持って抵抗したのさ」
「抵抗？」
「嗚呼。衝撃ってのは分からないけど、僕が抵抗したら体の自由は簡単に取り戻せた。君自身、まだ人の体をうまく操れないんじゃない？」
そうなのかもね。なんでそんな適当なんだよ。
Aと灰崎が話しているのを見ながら明日人は、野坂に見えるようになったんだ、と安堵に似た声色で話した。
「おそらく、さっきのサッカーが必要ってのはあながち間違ってないんだと思う」
「はぁ？まじかよ」
『そうだったでしょ、ふふん！』
「何で威張ってんだよ！」
野坂の考察によると、Aが誰かの体に入り込むにはサッカーが好きという気持ちが必要なのだという。野坂がそう強く感じた時、まるでその気持ちに引かれるようにAは体に入り込むことに成功した。違うとしても無関係ではないと思うよ、と野坂が付け加えると明日人は嬉しそうにAに近づいた。
「ってことはAが入り込めた人はみんなサッカーが好きってことなんだ！」
『へぇ、凄いね！やっぱりサッカーは凄い！』
「うん！」
明日人とAの喜ぶ顔を交互に見てから灰崎は、こいつら似てんな、と半ば嫌そうな顔で見た。野坂はいつもと変わらない顔で、あはは、と声だけで笑った。薄気味悪いことこの上ない、と灰崎は野坂から離れた。
『ふぅ、今日はこの辺りにしようか。明日もその次の日もきっと楽しいサッカーができるよ』
清々しい顔をしてAが言うと灰崎は、ようやくかと言うかのように欠伸をする。野坂がボールを拾い上げ土を軽く払い、明日人もそれを手伝おうと駆け寄った。
こんなに楽しいサッカーをみんなとできる。
『やっぱり、楽しいな』
Aの呟きは聞かれることなく、衝撃の一日はようやく過ぎ去ったのだった。
続く (更新停止中)
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作者名：匿名の人。 | 作成日時：2019年12月6日 19時
