第１４話 はなし ページ16
その日の夜。
すでにシャワーの後のストレッチも終わり、寝るだけと言う所で部屋の扉がノックされた。ルームメイトの剛陣も遅めのストレッチの最中ながら、誰だ、と声をかけ、扉を開けた。
「野坂」
「やぁ、剛陣君、ちょっと明日人君を借りていいかな」
明日人が自分を指差して、俺？と言うと後ろから灰崎がイヤホンをした状態で顔を出し、早くしろ、と急かした。
「明日人君、散歩に行こうか」
「散歩？こんな時間に」
遅いし今じゃなくてもいいんじゃないか、と言おうとすると扉の影からAが申し訳なさそうに顔を覗かせた。明日人はなんとなく、何か別の用事があるんだと理解し上着を持って部屋の外に出た。剛陣が、遅くならねぇようにしろよ、と明日人に声をかけると明日人は元気に返事をして、野坂たちと外へ走り出していった。
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涼しげな風が頬をかすめていく。隣を歩く灰崎に、何聞いてるの、とAが問えば、ロックと端的に答えられた。だがイヤホンがつながる先の曲名は最近よく街中で流れているバラードでAはニヤニヤと笑いながら納得したふりをする。
野坂がすでに監督に連絡を入れていたようで、同じく連絡しようとしている明日人に、心配いらないよと声をかけた。
「それで、なんの話があるのかな」
野坂が止まって振り返る。相変わらずAと視線が重なることはない。
灰崎も横目でAを見た。先ほどのニヤついた顔がすっと消え失せ、目を伏せる。
『稲森、体借りていい？』
「……あとで何を話したのか、ちゃんと教えてね」
明日人が目を瞑る。Aが明日人の方へと近寄り、手を伸ばし重なるように倒れこむとAの姿は消え代わりに明日人の目が自然と開いた。
いつものような黒のまっすぐした目ではなく、やけに色濃い黄緑の目。だがその目はまたしても伏せられ、申し訳なさそうに眉が下がっていた。
『あのね、今回はその、謝りたくて。一星のことで』
「一星君のこと？」
『……僕は、前からここにいた。君たちが僕を見つける前、君たちがここに来た時くらいには僕もいたんだ。一星が、君たちを潰そうとする光景を何度も見た。君たちが実際にやられたところも。
誰かの体に入れることが分かったのは今日が初めてだった。もし、この力をもっと前から知ってたら君たちを危険な目に合わせずに済んだかもしれない』
ごめん、とAが頭を下げると、野坂はふっと微笑んだ。
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作者名：匿名の人。 | 作成日時：2019年12月6日 19時
