何も知らない (ページ7)

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六度目ページ7

音をたてて布団を寄せた。浅い呼吸を何度か繰り返す。

手の甲に何滴か自分の汗が落ちた。

なんとも気持ちの悪い目覚めだ。

けたたましく目覚ましが鼓膜を刺激した。

それを止めようと手を動かしたが、驚くほど重く、自分の手ではないような感覚に苛まれた。

冷たいほうじ茶を机の上におき、小さく息を吐く。

あの後なんとか体を動かして階段を下り、軽くシャワーを浴びて汗を流した。現在の時刻は午前4時39分、当たり前だがリビングには誰もいない。

幼い頃から、時たまに夢を見る。

夢の内容は全くというほど覚えていないが、決まって起きたとき汗だくになっているので、相当な悪夢だと自分の中では解釈している。

ただ不可思議な点があるとすれば、夢の中の私はきっと幸せなのだろうと。ふとした時にそう感じてしまうことがある。

それともう一つ。

名前も知らない男の子が、私を呼んでいるんだ。

いや、明確にその場面を視覚で捉えたことはない。そんな気がするレベルで、だ。どんな風貌かは検討もつかないが、夢の中だと私は恐らくその子の名前を知っている。

知らないんだけどね、私は。

「あれ？お姉ちゃん早いね？」

『あ、おはようすーちゃん。すーちゃんも今日早いね、今まだ五時だよ？』

あれ、五時だ。

何してんだ私、二度寝すべきだったろうに。なぜ起き上がってしまったんだろうか。つか私絶対寝惚けてたな、シャワーまで浴びてるじゃんか。まぁ今日暑いからな。どうせ起きたときに汗でもかいていたんだろう。

「すずは今日委員会と日直被ってるから、早く行かないと全部終わんないもん。」

『え、今の小学生そんな過酷な日々送ってんの？』

「んーん、すずだけだと思う。同じ日直の川西くん絶対遅れてくるから、多分一人でやることになるだろうし。それ考えると六時半までにここ出なきゃ間に合わないから。」

それにしても早いよ？五時ってか五時前だよ？

そう聞くと、なんとも今時な答えが帰ってきた。

「あのねお姉ちゃん。良く考えてよ。

髪のセットに20分、顔を完成させるのに20分、最終チェックに10分…最低でもここまでに50分はかかるんだよ？顔洗ってご飯食べて歯磨いて服着替えて。分かるでしょ、一時間半なんてあっという間に過ぎちゃうの。」

これを聞いたお姉ちゃんはお口にチャックがかかっちゃったよ。ねぇすーちゃん。最近の小学生は大変なんだねぇ。