何も知らない (ページ26)

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二十一度目ページ26

びゅう、と風が吹く。

生温くて、心地悪い。

『…なんでそんな頑なに嫌がるかな』

そんなに私に言いたくないの？

頭の中にあるのは、かっちゃんと出久のこと。

かっちゃんの部屋から出たら、もう空は薄暗くなっていた。さっきまでオレンジ色だったのに。

かっちゃんは出久を殴った。グーで、殴った。出久のほっぺは痛そうだったけど、本人は傷ついた顔をしていなかった。痛そうな顔はしてたけど、傷ついた顔はしてなかったの。

殴られることを、わかってたみたいに。

本当のところがどうかはわからない。ただのオンナの感ってだけ。でもそんな気がした。

かっちゃんが出久に意地悪するのも悪態つくのも今に始まったことではない。

けど、殴ったのは初めてだ。

幼い頃に苛立って突き飛ばしたりしたのとはワケが違う。

この年で、間違いなく意識のある状態で。

もう中学生だ。喋る言葉も、今した行動も、全部に意思があり、意味がある。

意味をつけて言葉を返し、行動する。

「殴る」という行為にも、意味がついてくるのだ。

かっちゃんは何を思って出久を殴ったのだろう。

理性が効かず、感情が不安定になるほどの何かが、二人の間にあったのか。かっちゃんは元々怒りの沸点が低いけど、それは出久が一番良くわかってる。

どうしよう。

ガラガラと、崩れ始める音が聞こえる。

意地悪でも幼馴染みだったし、困ってたら助けてくれた。

かっちゃんは出久を拒絶していたけど、出久が転んだ時には焦った顔をしていた。

出久はかっちゃんを怖がっていたけど、頼る先はいつもかっちゃんだった。

仲が悪くても、毎日喧嘩してても、次の日にはなんともなかったし、挨拶はしなくても嫌な雰囲気はなかった。

中学生になった今でも、誰かの家で一緒にご飯食べたり、旅行はみんなで行ったり、ゲームしたりアイス食べたり。

変わんなかった、変わらないと思ってた。

3人でいる時間は特別だったのに。

ガラガラ、ガラガラ。

ガシャン。

私の中の何かが、一際大きく嫌な音を立てた。