何も知らない (ページ18)

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ふたつページ18

今日も一日、蒸したような暑さだった。それでも夜になると風が気持ち良くて、今はこうして座っているだけでも昼時が嘘だったみたいに涼しい。

綺麗な満月を、見つめ続けてどれくらい経ったのだろうか。きっと半刻はくだらないな。

そうは思うけれど、今のところ動くつもりはない。何かあるわけではないが、何もないわけでもないから。

こうしていると、何かを思い出せそうな気がするんだ。何を思い出そうとしているのかすら分からないけど、それでも。知りたいと思う、これまでの私の“記憶”を。

「いくら夏だとしても、夜は冷えますよ」

透き通るような声にハッとした。声の聞こえた方を見ると、落ち着いた色の羽織を持った彼女がそこにいた。指通りの良さそうな髪が風に揺られて、深みのある菫色が此方を少し不安そうに見つめていた。

『今日、月が綺麗なんですよ、とても。しのぶさんも隣に、どうですか？』

断られる事を前提に笑い掛けてみる。それにしても、この縁側に続く廊下は歩くと軋むはずなんだけどなぁ。全く音がしなかったのは私の不注意か、彼女の実力か。はたまた、彼女がこの屋敷の家主であるからなのか。

「そうですね、では少しだけご一緒させてください」

ありゃ、良いんだ。全く予想していなかった答えだが、嬉しいことには変わりない。隠しきれない笑みを彼女に向け、どうぞと言って自分の右隣をとんとん叩く。

それから二人で他愛のない会話を繰り返し、笑いあった。一つの羽織を二人で被って。馬鹿みたいな私の話に、吹き出すように肩を揺らして笑う彼女はやっぱり綺麗だった。この美しい夜の中で、何よりも綺麗だった。時折見せるその“本当”の顔が、私は大好きだった。

それなのに私は

＿＿＿＿＿＿＿＿＿私は彼女を、守れなかった。