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「にしても経費で落ちるって凄いなぁ」
新鮮なのか、イタリアの街並みをきょろきょろと見回しながら、A・バルザレッティはずんずんと進んでいく
案内役を頼まれた俺とペッシは一度顔を見合わせてから、前を歩くAに声をかける
と、言うのも、コイツが向かっているのは俺が案内しようとしていた店とは真反対だからだ
「なぁアンタ、ずんずん進んでるが道わかんのか？」
「ああ、大体はね。だいぶ景観は変わったけどああほら、あのリストランテは見覚えがある」
そう言って指を指すのは創業80年近くのリストランテ。
なるほど、確かにここならばAが寝たきりになる前にもやっていただろう
「……って言うか、こんなとこに仕立て屋なんてあるんスか？」
「最高のスーツを作る仕立て屋がね。
ほら、ここに」
そう言ったAは角を一つ曲がった。
目の前に現れたのは一軒の仕立て屋だった
左右に大きく開かれたショーウィンドウには上質なスーツが数着、上品に展示されており、店の看板には緑に金の字でSU MISURAと記されている
「こんなとこに……」
「さ、行こう」
金のノブを回し艶のある木の扉を押し開けると、涼しげな鈴の音の後に、見事なスーツを着こなした男が丁寧な口調で俺達を迎え入れた
「いらっしゃいませ」
「やぁサルト」
慣れた様子でAが男に声をかけると、男はクラシックな丸メガネの向こうの細い目を見開いた
その後ハッとしたように襟を正すと、メガネをはずし深く頭を下げた
「……お待ちください。ただいま父をお連れします」
キョトンとしたAは首をかしげてから、ああ、と小さく呟いた
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作者名：東雲出雲 | 作成日時：2018年7月1日 15時
