2019年5月13日・三 ページ10
「ああ…そうですね。 連絡は入っていないのですが」
「病院に問い合わせたら分かるんじゃないの?」
機械音痴の真理恵のことだ、おおかた国内電話と国際郵便以外の連絡手段を知らずに伝え忘れているのだろう。 検診の帰りに本社前を通ることから病院の見当はついた。
「申し訳ありません。 患者さまの個人情報につきましては当院から一切お伝えできない決まりとなっております」
同期の読みが当たっていることも露知らず、一人部屋へと戻る名雲だった。
「ああーっ、痛い痛い痛い!」
この日の月は九日目の月で、上弦の月がやや膨らみを帯びた物だ。 月の満ち欠けのせいか、夕方に一人が分娩室に移ってから産気付いた産婦は真理恵一人になっていた。 総合病院の大部屋で喚きたい放題である。
「はいはい、古川さんいい陣痛が来ているね〜。 この分なら日付を跨ぐ頃には産まれると思いますよ」
「日付を跨ぐ頃ォ!?」
最初の陣痛からは半日以上が経過している。 朝には5分おきとなっていて、昼には産まれるだろうと言われていたのだが一向に子宮口が開かなかったのだ。 夕方になって徐々に広がり始め、陣痛の間隔もほとんど感じなくなった。 もう電話を掛ける気力はない。
「ゆりこちゃんはもっと早かったのに…」
「お産には個人差があるのよ。 この子は上品に産まれてくるのね」
「上品じゃなくて良いのに〜!」
絶えること無く腰を摩る典子にも悪態づき始める有り様。 こうしてやっと分娩室に入ることができたのは日付が変わる十数分前のことだった。
THE END
『こんにちは赤ちゃん・前編』
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SAGAの時間軸とはいえ、名雲さん暗躍前ですので多少ゲスい程でも彼から所帯染みた何かを取り除かねばならぬのです。 うちの父も時代柄ドライな人なので検診についてくるお父さんを見て腰を抜かした過去がございますが…。
これがもし柾氏が生きている前提の百合子ちゃんのお産だったら? 彼はたとえ地の果てであっても駆けつけるでしょう(笑)。
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