2019年5月27日 ページ19
生理痛のように痛む身体を起こすと、そこは宮邸ではなかった。
「あら…」
今のは夢だったのだろうか。 それにしてはあまりにも現実的すぎる。 鏡に向かうと、乱れた長襦袢と一緒に首や鎖骨の
買い物かごと携帯ケース、身の回りの物を入れたポーチはちゃんと手元に戻っている。 しかし不思議なことに、ポーチに入れてあった封筒が消えているのだ。 その封筒の中には──。
「さっちゃん、アンタ無事だったんか!?」
平日の日中に兄は家を空けている。 近くの頼れる人ということで、佐紀子は迷惑を掛けた勤務先の食事処を潜った。 中にはパートタイマーの上田陽子がいた。
「とりあえず、厨房を手伝って!」
「へえっ」
ひと月も行方をくらました自分を何も言わずに受け入れてくれた陽子。 この恩は一生掛かっても返しきれないと感じた佐紀子だった。
山階宮が目を覚ましたのは5月27日の日が高くなった頃だ。 19年ぶりに抱いた温もりが見当たらない。 彼は必死に布団をかきむしった。
「佐紀子、佐紀子…」
亡き妃の部屋を間借りしていた看護婦の櫻は跡形もなく消え去っていた。 職員でさえ彼女がどこに消えたか分からないという。 富士見町4丁目の日本家屋に伺いをたてても埒があかない。
「殿下、このようなものが!」
山階宮の部屋を捜していた職員の手には、見覚えのない封筒と18枚の写真があった。
「お櫻
主人は獣のように写真を貪り取った。 そこに映るのは軽やかな洋装の櫻と若者。 下にいく度に、若者は幼くなり、櫻は若くなる。 そして──。
「佐紀子!」
幼子を抱く女性は、亡き妻の他に思い当たる人物はいない。
THE END
『我が君よさようなら』
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