タイムトラベルは突然に 5巻【短編物語】 (ページ15)

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1942年5月23日ページ15

「東京九段の宮邸には開かずの間がある」。このような風の便りも知らぬお櫻さんは騙されたんと違うか、と噂する家中の人間を尻目に、山階宮家の関係者は彼女を『開かずの間』に連れていってしまった。

「山階宮殿下、新しい看護婦を連れて参りました」

看護婦。現代日本では2002年の保健婦助産婦看護婦法改正に伴い看護師と呼ばれるようになったが、当時のそれとは大きく異なる物だ。櫻のいる1942年現在、看護婦は国家資格ですらなく、櫻田女学校や医療機関で徒弟的に訓練されて就く職業であった。唐人お吉に代表されるように、広義的には妾と同類。櫻は当然後者の意味合いが強い。

ちなみに櫻田女学校が女子御三家の一つ、女学院中学高等学校であることを櫻こと佐紀子は知らない。

「この中に、宮さまがおわしゃる…」。櫻は覚悟を決め、固く閉ざされた部屋に入った。中には、年相応に老けた、見覚えのある後ろ姿が小さく見えた。

「櫻と申します。宮さまには心から仕えさせていただきます」

今を去る21年前、確かに口にした言葉を──また言わねばならない。あの時のように紅潮した顔を上げるのが恥ずかしくて、櫻は賀陽宮家の佐紀子女王に戻ってしまった。

「さきこ…」

暗く淀んだ山階宮の瞳が明るくなったのを、職員は見逃さなかった。

「貴女を、幸せにすると誓う…」

THE END

『22年目のプロポーズ』

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佐紀子さんは櫻と名乗っていますが、再会した夫君に聞こえているはずがありません。職員の皆さまは亡き妃殿下(佐紀子女王)のソックリさんで、お櫻さんを身代わりにしようとしています。本物なのにね(笑)。

お二人の結婚は1922年夏(20年前)ですが、結婚話はその前年に出ていたようなので21年前のプロポーズということにします。恋愛結婚でもいつ恋愛したかは永遠の謎。それがいいかもね。

1942年というと…戦時中のちょっとウハウハな時代です。戦況が悪化したのは下半期。まだギリギリ上半期！(笑)