タイムトラベルは突然に 5巻【短編物語】 (ページ14)

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2019年5月21日ページ14

真理恵が出産した総合病院では自然分娩の初産婦は産後6日で退院するのだが、急激な体重減少と貧血で血液検査の成績が思わしくなかった彼女とその娘は1日遅れで退院を迎えた。

「エミちゃん、お外は初めてだねェ」

その娘は生後7日目に当たる昨日20日に血縁上の父親によって出生届、その他諸々の書類が提出された。古川(ふるかわ)エミ、父の名は空欄だが母は真理恵という。女の子が産まれたらエミ、と言われたことを思い出して名づけた。

そんな娘は母乳をよく飲みよく寝る子で真理恵も大いに休むことができる孝行娘の片鱗を見せている。依田家の愛車に取りつけられたチャイルドシートの中でも、調子に乗った典子から贈られた天蓋付きのベビーベッドの中でもすやすや眠っている。

「現実に戻ったんだか戻っていないんだか…」

自分のベッドに力なく臥した真理恵は、一息ついたと言わんばかりに呟く。床上げまでの約3週間は二人ともベッドで寝たきり同然の生活を送ることになるのだ。初めて典子を寝室に上げて、彼女を仰天させたのは言うまでもない。

「ちょっと、どうしてベッドが2台あるのよ!?」

「そっちは名雲さんのですよ」

大家と不毛な言い争いを繰り広げる母親を横目にすやすや眠る娘は将来大物になるかもしれない──。

「お櫻さん、少し来てもらえないか」

富士見町の大きな日本家屋で女中として働いている櫻を呼び出したのは家の主だった。客間には恵まれていると思しき身なりの整った男女がおり、二人は櫻を見た途端、勢いよく席を立った。

「今は亡き妃殿下に瓜二つで…!?」

「もしや、息を吹き返されていたのでは!?」

感情を表に出すことの少ない上流階級の人間ですら顔色を変えるこの狼狽えぶりに、すっかり庶民暮らしが定着してしまった櫻──佐紀子はどぎまぎする。妃殿下という声が聞こえてきた。この人たちはもしや──。

「わたくし共は富士見町5丁目1番地の山階宮家の者でございます。お櫻さま(・・)には是非こちらでお働き願いたく──」

それは天明の福音か、地獄への旅路か──それは神のみぞ知る話だ。

THE END

『God knows』

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タイトルは英語で『神のみぞ知る』。決して超次元サッカーゲームの羽の生えるアレではありません。