2019年5月15日 ページ12
静岡県内の総合病院から山梨県内の自宅の離れに帰った典子は、照明に気づいて全速力で部屋に入った。
「もーう笑っちゃうくらいに
知り合いに似た人をわざわざ見に行くなんて、と普段なら思うだろうが、その知り合いが産んだ子どもなのだ。 産褥にあっては不自由なこともあろうかと、彼は車を走らせた。 典子の発言がとても矛盾していることなど、未だ真理恵と連絡が取れない名雲が知る由もない。
産婦人科の入院病棟は6人部屋で、基本的に母子別室で過ごす。 産婦同士の情報交換もあるようだが、精も根も尽き果てた真理恵は仕切りのカーテンを閉じて一日の大半をベッドの上で過ごしている。 日に何度か看護師に呼ばれて授乳や沐浴等一通りのことを学ぶが、意識が遠退いて集中できない。 産後の肥立ちが悪いと言うには早合点だろうか。
「あ、またお腹が空いたのかな…」
大きな戸が開く音がし、足音が自分のベッドに近づいてくる。 さっき授乳して眠ったのに変ね、と思いながらも子どもには昼も夜も無いことを思い出し、ベッドから起き上がった。
「お久しぶりです、真理恵さん」
「えっ…!?」
カーテンの向こうには果物が入ったバスケットを持つ同居人。 加工済みで保存や皮剥きに苦労しないが、何故ここにいるのか。 真理恵はただ呆然としながら目の前の光景を眺めていた。
「真理恵?」
「あ、はい。 こんにちは名雲さん」
「お疲れさまでした。 つまらない物ではありますが…」
「ありがとうございます。 あ、そこに掛けてください」
日本式のマナーでその場で贈り物の包装は開けない。 ちょっと待っていてください、と簡易湯沸し器とティーパックを開けたが、見舞い客に遠慮された。
「子どもは?」
「新生児室…だったかしら、見に行きますか?」
地に足をつけて歩こうとした時、褥婦の身体がぐらりと傾いたことを名雲は見逃さなかった。
To Be Continued...
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