2017年1月7日 ページ45
真理恵が家政婦として雇われている葵家の次女・紗和子は今年、高校に進学する。 ところがどうだろう、部屋から歌声がひっきりなしに聞こえてくるではないか。
「ひーとの…♪」
「紗和子さん、何しているんですか?」
「真理恵ちゃん!」
真理恵の知らない曲ばかりだが、合唱曲にも聞こえない。 興味を持った真理恵が声を掛けると、ヘッドホンを着けてスマートフォンを持つ紗和子が見えた。
「もー、ビックリさせないでよ。 せっかく録音していたのに」
「録音? ごめんなさい、少し気になって」
「そっか、それじゃしょうがないね」
そう言うと、彼女は意気揚々と説明を始めた。 これはナナというアプリで、歌を唄ったり演奏したりした音声をインターネット上に投稿するのだと。 先程歌っていたのはG・GripのWinnersという曲で、一昨年流行ったと。
だが、真理恵が気になったのはそこだけではなかった。
「その携帯電話、名雲さんのみたい」
「なぐもさん、って誰?」
スマートフォンが世に出回り始めたのは2010年代に入ってからで、真理恵は知らないのだ。 未だに2003年発売の『F525iGPS』を使用しているので、スマートフォンに触る機会も無い。
「私の住んでいる家を借りてくれている人」
同居人の素性を問われて少し詰まったが、表現はあながち間違っていないだろう。 真理恵の住まわせてもらっているマンションの一室を大家から借りているのは彼だ。
「一緒に住んでいるの?」
「ええ、まあ…」
「じゃあ、彼氏だ」
「違います! そんなことより、紗和子さんはどうして自分の歌声を投稿しているんですか?」
話題をすり替えた真理恵に、紗和子はニヤリと笑った。 「彼氏の存在は黙っておくから、ナナに登録して歌え。 そしたら投稿している理由も教える」と。
THE END
『デジタル音痴マリエちゃん』
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