続・1999年12月26日 ページ41
「ねーメリちゃん、メリちゃんはいつからピアノを弾いてるの？」
普段は11時就寝の一家だが、滞在中の子どもたちが9時半就寝ということで合わせて寝ている。 お陰で起床時間が早くなった。
「2歳ぐらいの時からだよ。 坊やは？」
「僕も2歳の時から」
5歳児にしてピアノ演奏歴3年というのは、なかなか凄いことらしい。 小学校6年生で母のピアノ教室の門を叩いてきた幼馴染みが話していた。 そんな14歳の真理恵はピアノ演奏歴12年である。
「よくアリシア先生がね、メリちゃんのピアノのビデオを見せてくれる」
「へえ。 どんなビデオ？」
「メヌエット弾いてるの」
メヌエット。 色々な種類があるが、一番有名なバッハのト長調のメヌエットだろうか。 その曲は5歳の時に初めて出たピアノのコンクールで弾いた曲だった。 そのコンクールでは選外だったが、その次の大会では銅賞を授賞して嬉しかったことを覚えている。
「じゃあ坊やもコンクールに出るの？」
「コンクールって？」
「大きな舞台の上の大きなピアノを弾くの。 人もたくさんいるのよ」
そう説明しても、幼稚園児には分からないようだった。 少し難しかったのだろうか、と真理恵は別の話題を探した。
「そうだ、どんな曲を弾いてるの？」
これは分かったらしい。 同じベッドの外側に寝転んでいる彼が「モルダウ」と言った。
「モルダウ…？」
真理恵は驚愕した。 モルダウなんて、自分が小学校に上がってから弾いた曲ではないか。 こちらでは自分に弾かせてばかりの幼稚園児がそんな難しい曲を弾けるなんて。
「凄いね坊や、私は小学生の時に弾いたよ」
「ほんとう？」
彼の顔がぱあっと明るくなったのが目に見えて分かった。 微笑ましい光景に、つられて真理恵も目を細めた。 本屋に住む幼馴染みの妹と同じくらい可愛いと思った。
「じゃあ僕、大きくなったらメリちゃんをお嫁さんにしていい？」
だが、次の一言は耳を疑った。 何だかプロポーズのような言葉だったからだ。 きっと冗談に違いない。 そう思い、笑って返した。
「いいよ」
次の瞬間。 半身を起こしていたはずの真理恵は勢いよく枕に頭をぶつけた。 自然の動作ではない。 言い方は悪いが、犯人は隣で半身を起こしていた幼稚園児だ。
茫然としているうちに幼稚園児が顔をぐいっと近づけてきていた。 そして、気づいたときには口を塞がれていた。
「寝るときはキスするんでしょう？ お母さんが観てるテレビでやってた」
To Be Continued...
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