2016年3月27日・七【80】 ページ4
酒屋の話ですっかり忘れていたが、この住宅地の一本道をずっと歩くとJR・江ノ島電鉄線(江ノ電)の鎌倉駅が見えてくる。 駅舎はまるで日本家屋を彷彿とさせる造りで、近所には旧駅舎時代のクラシックな時計塔が残っている。
真理恵の地元の最寄り駅もそうだが、兎に角鳩が多いので、この時計塔のある広場(時計台公園)で小腹を埋めようとする時はくれぐれも餌をやらないように。
「ここから、八幡宮に行くには表口(東口)に出てから小町通りに出ます。 行きましょう」
この時計台公園からは、そこかしこにぶら下がっている武家の家紋を目印に
元来、観光客は小町通りを使い、地元住民は御成通りを使うことが多いのだ。
鶴岡八幡宮の境内には、数多の屋台が出ている。
「ここのりんご飴はとっても美味しいんですよ。 あと、タピオカドリンクを飲める所もあるんです…あらっ、ステーキ⁉ 食べても良いですか？」
真理恵曰く、『お宮参りから合格祈願までお世話になった』神社。 そのせいか、口数も増えている。 現に今も『タン塩ステーキ』という屋台を見つけ、興奮している。 普段名雲の見ている彼女とは大違いだ。
「構わないですよ」
「ありがとうございます。 あなたも食べますか？」
「いえ、結構です」
先程小町通りのクレープ専門店に行った時、真理恵が希望したラム酒入りのクレープの注文をを止められたのもあって、彼女は花が咲いたような満面の笑みを浮かべながら屋台に近づいた。
ラム酒入りクレープを止められたのは自分が酒に弱いことを知っている訳ではなく、ただ単に子ども扱いされただけ。 仮にも生まれ年は10年早いなのに、こんな屈辱は初めてだ。
こういう時は自分が30代と認めざるを得ない。
「ステーキ、一本ください！」
そして、名雲が聞いたこともないような明るい声を出している気もする。
これが本来の彼女だったのかもしれない。
「あの、食べてからお詣りしても良いですか？ これを持ち歩いて上に行くのはちょっとしんどくて……」
「ああ、待ちますよ。 荷物も持ちましょうか？」
「あっ、お願いします」
To Be Continued...
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