36【亀 キヤク 薬】 ページ38
*
すっかり隠世酔いも治ったらしいハナエくんの意味深な鼻歌を背にし、イツキくんに手を引かれて歩くこと数分。
「ここが亀薬堂だ」
ゴリゴリという聞き慣れない音に怯えながら暖簾を越す。
「「いらっしゃいませー♪」」
そこには、着物を着た女性と割烹着のような装いで水色の髪をした少女がいた。
「あらァ、イツキ」
「久しぶりじゃね!」
イツキくんは顔なじみの様子で、店内の様子に小言をこぼしている。
「人間!?」
「人間に……化けるのが上手くなったでしょォ?うちのシズク」
「コウラさまもっと褒めて〜」
着物の女の人がコウラ様で、尻尾があるのがシズクちゃん。
シズクちゃんの方は、人間に化けているらしい。主人のコウラ様が大好きな様子が伝わってきた。
「コウラ、いつもの薬を買いに来たんだが」
「そろそろ来る頃だと思っていたよォ……でもその前にィ」
コウラ様がイツキくんに近づく。というより、密着する。
その光景を見て、私は反射的に二人に背を向けてしまった。
やだ、見たくない……。
「最近触ってなかったからァ♥相変わらずいい香りがするわねェ」
コウラ様が発する、妖艶な声がイツキくんに向けられているんだと思うと、胸がギューっと締め付けられる様に痛い。
名前で呼び合っている所からも、もしかして、って思っていたけれど……あって欲しくなかったけど、もしかして、二人は恋人同士だったりするのかな?
「いつ見ても惚れ惚れする身体だねェ」
この場から、すごく、逃げ出したい。
どうしよう。
『好き』って、自覚したばっかりなのに……もう、失恋しちゃうのかな……私。
逃げたくても、逃げられなくて、目をつぶって二人の様子がなるべく分からないように一人で閉じ籠もろうとした、その時。
「この目があれば最高級品の良薬が作れるわァ」
「知るかッこの薬オタク!!」
「「……え?」」
薬……?
何か思っていたのと違う気がして振り返ると、相変わらず距離の近い二人がいて胸がズキズキする。
でも……コウラ様が惚れているのって、もしかしてイツキくんの身体……?しかも薬の材料として。
「シズクの方が絶対にイイ薬になれるのに。イツキの目潰れて消えてなくならんじゃろうか」
シズクちゃんはシズクちゃんで、イツキくんに嫉妬しているし……。
とりあえず、よかったぁ……。
この恋が実るのはいつになるか分からないけれど、失恋はまだしなくても良さそうだ。
*
-勝てる気しない-
347人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
レア - 凄く面白いです! 朱里ちゃん可愛い! 続きが読みたいです! (2019年2月14日 21時) (レス) id: 47e47ec318 (このIDを非表示/違反報告)
アオイ(プロフ) - わわわッ!!/// 私も不機嫌なモノノケ庵を愛読してまして...。この夢小説を見かけてとっても嬉しく思ってます!!頑張ってください!! (2017年5月31日 23時) (レス) id: 9fc158d11b (このIDを非表示/違反報告)
雪菜 - オケです!これからも更新頑張ってください! (2016年10月11日 17時) (レス) id: 6399b4f188 (このIDを非表示/違反報告)
うし(プロフ) - ハニーさん» ありがとうございます!気に入っていただけて嬉しいです、これからも頑張ります。よろしくお願いします。 (2016年10月6日 23時) (レス) id: 2c2d75bad9 (このIDを非表示/違反報告)
ハニー(プロフ) - 天宮さん可愛いです!これからも楽しみにしてます! (2016年10月4日 23時) (レス) id: 235af3f7e2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:うし | 作成日時:2016年8月6日 1時