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「え、」
「あかん?」
「あかんっていうか…」
いいんじゃない。って言えない。なんでだ。
もし、大毅がさっちんと付き合ったら
放課後、誰と帰んの。
数学は誰が教えてくれんの。
そんなの、誰でもいいのかもしんないけどさ、
なんか、やだな。
「なぁんてな。」
笑わないでよ、笑えないよ。
「お前やったら、嫌やとか、寂しいとか言ってくれると思ったんやけどな」
ほんじゃ、って大毅が去っていく。
どこか悲しい背中。
私、なんてことしたんだろう
大毅との時間、無駄にしちゃった。
今なら走って引き止めたら間に合うのに、
後ろからぎゅってしてあげられるのに、
どうして、足は動いてくれないの。
「加賀谷」
「藤井?どしたの」
「さんぽ」
「あんたの家、二駅先でしょ?」
「…」
「何しに来たん」
「寂しそうな顔すんなや」
藤井が私の手を握る。
拒むことも出来た、でも
藤井にそっと抱きしめられて、泣きそうになった。
加賀谷、泣かんといて
藤井も泣きそうな声で、私の背中を撫でた。
まるで私の考えてることを全部分かってるみたいに。
彼はただのクラスメイト。
彼はただの大毅の親友。
彼は、ただの、ただの友達に過ぎない。
「やっぱしげとなんかあったんやろ」
「…ちがう」
「ふふ、あっそ」
この夏休み、大毅の代わりに藤井との日々が多かった。
でもそれは別に大毅を重ねて、とか
藤井を利用して、とか
寂しさの捌け口だとか、そんなじゃない。
大毅によってぽっかりあいた心の穴を、
藤井は無理にじゃなくて、優しく塞いでくれたの。
─映画、行こや。
─猫拾ってん、見に来る?
─明日は星綺麗に見れるって、夜一緒に行こ。
藤井は、私にとって、"ただの"じゃなかった。
いつの間にか、大切な、友達になっていた。
「しげのこと、いつでも聞くから」
これ、渡しに来ただけやけど長居してもうたなぁ。とわたしの頭をくしゃりと撫でて紙袋を渡した。
「借りてた漫画、ありがと」
去っていく背中。
あぁ、さっきの大毅と同じだ。
寂しい背中、何か言いたげな背中、
「大毅、」
不意にも、大毅に見えてしまったの。
もう私は、大毅しか好きになれないの。
「大毅ぃっ…」
呼んでも君はもう、駆けつけてくれないだろうね。
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作者名:のらら | 作成日時:2018年8月9日 0時