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You side.



「ただいま」



無駄に大きな部屋に響きもしない私のか細い声。
崇裕くんは仕事が出来るから帰ってくるのもなかなか遅い。
馬鹿な私はその内容さえも知らなくて、ふいに何故私はこの人の妻なんだろう、と思う時がある。

愛してくれていることは、ひしひしと伝わる。

でもやっぱり私は大毅がいいの。
全て覚悟して何度も考えた彼との結婚だったのにそれを壊すことはいとも簡単なことだった。

幼い頃から知っていた大毅が家族になった時、
私はすごく悲しかった。
もっと自分の気持ちを抑えなくてはいけなくなったのが嫌だった。
そして彼は私を突き放し、間に受けた私は逃げるように外国へ。


大毅に、酷いことを言ってしまった。
好きが私の邪魔をして気持ちの歯止めをきかせてくれなかった。
ただ好きなだけ、それだけなのに。

自分に酔ってる。そう彼に言った。
その言葉は私にも痛いほど当てはまっていた。

この薬指にされているのは、もう私は崇裕くんと幸せになるのだと交わした指輪なのに、それを無視するかのように大毅を取り戻すことで必死だ。


大毅に会って、気持ちを伝えたら諦めるつもりだった。
でも、彼を見る度彼と過ごした結晶のように綺麗な思い出が鮮やかに過ぎる。

その度私はまた思い出に囚われる。



ドアが開いて、はっとした。
崇裕くんの「ただいま」の声でびくりと肩が竦む。



「おかえり」



崇裕くんの顔をちゃんと見れない気がしてキッチンへ逃げ込むと、後ろから抱きしめられ心がほどける。



「なぁA、俺らって夫婦?」

「どうしたのいきなり。当たり前でしょ」

「Aが好きで好きで、大好きで仕方ないねん、」

「変だな、崇裕くんじゃないみたい笑」

「不安や」




その言葉を遮るように、彼の頬に両手を添え
笑ってみせた。



「さては、もう呑んできた?」

「なぁA、」



手首を掴まれ、涙目の彼と目が合う。
熱っぽい瞳に私の体も熱くなる。

ぎゅうっと強く強く抱きしめられた。
もうどうにかしそうなくらい、めいいっぱい。

耳元でくぐもった崇裕くんの声は震えていた、




「どこにも行かんとって」

「…行かないよ」

「俺の傍におって」




崇裕くんがこんな風に私に甘えることは今まで無かった。私がずっとリードされてて、弱い部分は全部隠して。

この人本当に私のこと好きなのかな?って不安になるくらい。


でもそれ故に、彼の愛だったのだと
私はようやく知った。



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作者名:のらら | 作成日時:2018年11月30日 23時

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