雪の傍で。 (ページ16)

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「なにそれ、」

「お前のこと、心の底から愛されへんのは
お前がどんどん俺を黒くするからや」

君が、僕の手から離れていく度
僕は何度も君に手を伸ばす。

もう一度、もう一度と。

でも君はもう違う人の腕に抱かれ
僕はまたその伸ばす手を下ろし、背を向けまた嘘つきな自分へと歩き出す。

手に入れたいなら、ずるくならなくちゃいけない。
そんなの言われなくても僕ならそうする。
でも僕はその手を使うのが早かった。

君がいつまでも僕の隣にいると思っていた学生時代。
君の心を弄ぶようなことをした学生時代。

好きだった、それ故に欲張りになった。
そのせいか今は何も言えない、何もしてやれない。

「私、大毅と一緒になれるためならいくらでもずるくなるよ。そのためなら、誰でも騙せる。
でも大毅は私とのこと、そこまで考えてない。
そうでしょ？」

君の声が、鼓膜に児玉する。
君は僕を分かっているようで分かっていない。

「違う。俺はただお前に謝りたかった。
ずっと言われへんかったこと伝えたかった」

「それだけ？私に好きって言って終わり？」

「あのな、」

「私が欲しいと思わないの？」

「落ち着け、な？」

涙を瞳に溜めるA。
こんなA、見たことない。
いつも落ち着いてて大人な彼女が、今日は感情的だ。僕を縛って、自分自身も縛ってる。

「私のこと奪ってよ」

「奪いたいよ」

「じゃあなんでそんな綺麗事言うの」

「今日のお前、おかしいぞ」

彼女が少し俯いて顔を上げた際に零れ落ちた涙が、
テーブルの上にぽたりと音をたてず吸い込まれてった。

僕は、君が欲しい。
彼女の言うようにどんな手を使っても、君と一緒にいたい。

不倫だろうと、なんだろうと関係無い。

なのに、いつも言い出せなかった。
素直になるのが怖かった。
いや、自分が怖がりだから、いつまでも彼女に我慢をさせていた。

こうなることは、予想されていたのかもしれない。

「大毅は自分に酔ってるよ、すごく。」

彼女は、僕にそう言い捨て出ていってしまった。
今日の約束は白紙に戻った。
彼女を追うように玄関へ走ったが、その途端崩れ落ちた。

君が、泣いていた。
ドア越しでも分かるように。
扉に触れたら熱が伝わるかのように。

きっと扉にもたれて泣いているんだろう。
なんでこんな時、励ます側に居れないんだろう。
どうしていつも彼女が泣く理由は僕なんだろう。

それは、答えがすぐに見つかるようで
見つからなかった。

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