隠せ、嘘 _奏 ~ ページ10
電車がこっちに走ってくる。線路を伝って私の方に向かってくる。
あそこには車掌さんがいて、この大きな電車を動かしている。あそこにはたくさんの人達がいて、この電車に乗っかって 皆どこかに消えていく。
なぜか ふと ひどく死にたくなった。息がそっと喉で止まって、頭の中の回路も冷え落ちていった。手に持っていたバックをその場にぱたっと落とした。
一歩、黄色い線を踏む。線路を通って電車が近づいてくる。
こんなときだからかもしれない、ただ冷静であった。早く死ねたらいいと。
「ダ、ダメ、ダメだよ、やめてA…」
『…』
振り返った。
青い顔をした奏が 私の腕を掴んで止めた。掴んでいる手はカタカタと震えていて、心なしか冷たい。そこまで寒くもないはずなのに
『…ごめん』
落としたバックを拾う。黄色い線の内側に戻る。奏の隣に戻る。
一連の流れを 今まで何度繰り返しただろう。奏の隣でなくとも、私はいつもこうやって 誰かの隣に戻るのに。
人混みの中で ふらりと奏が私の腕にしがみついた。白くて長い髪が揺れる。青色の瞳が私を映す。
「いかないで、私を1人にしないで…」
『…』
涙が目に溜まって揺れている。純情たる雫は 確かに透明だった。
世界の向こう側が透けているような気さえする。いつか私が死ぬときは、奏のその瞳に吸い取られて殺されたいとまで思った。
『…1人にするのは、奏だって同じくせに』
「…え?」
『ごめん。止めてくれてありがとう』
「…うん」
私と奏で 1人の意味が違うけれど。
死にたくなった理由を、死ぬのをやめた理由を、嘘で塗りつぶした。
私が飛び込んだら、きっと寸前の私を見た車掌さんがトラウマになる。人を間接的に轢き潰した感覚を覚えてしまう。人身事故で電車が止まって、皆が迷惑する。奏が悲しむ。
本当の理由を 言い訳と正論で暗がりに押し込んだ。それはきっと、私がいなくなるまで出てくることはない。
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さき(プロフ) - ふみふゆさん» 迷惑だなんて、とんでもない!とっても嬉しいです!ありがとうございます…!! (2月6日 19時) (レス) id: bc9aead4c2 (このIDを非表示/違反報告)
ふみふゆ(プロフ) - 迷惑だったらすみません、雰囲気とか話し方とか、全然壊れてなくて好きです…… (2月6日 18時) (レス) @page12 id: aed784c8de (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さき。 | 作成日時:2023年9月12日 23時