放課後メランコリー _瑞希 ページ3
背中に吹きつける風が冷たくて身じろぎをした。さみしい風の匂いがして、少しだけ視界が滲んだ。
どうしようもない感情の行き先を、どうしてくれようか。
心に留めるだけでは いずれ入れ物すらも壊れてしまう。溢れだしたそれを止めるためには、もっと大きな入れ物が必要だ。
溜まったものを上手く吐き出せるのがいいんだろうけど、そんなことがとっくに出来ていたなら、元より私はここにいない。
出来ないからここにいて、その方法が分からないからここにいる。何も出来ないから、ここに来て 何もしないまま時間を過ごすのだ。
口の中に溜まった 熱いため息を吐いた。
その分体温が下がる。
「…寒くなってきたね。中に入る?」
『ううん、ここでいい。ここじゃなきゃ意味がない』
「それもそっか」
中性的な声が私の頭を響かせて、少し我に帰った。深く考えすぎると 今の状況を何もかも忘れる。誰だって、そう。そうであってほしい。
横を見ると、瑞希がいる。綺麗に巻かれた薄いピンクの髪の毛と 同じ薄いピンク色の目を揺らせて、憂いを考えている。
学校内では決して考えられない姿。それは私も同じ。
悲しそうに目を伏せて、何かを考えている姿に いつもの明るい瑞希は見当たらない。誰だってそうだ。誰だって一度は希死念慮を考える。
『… … ねえ瑞希』
「………… … … 何」
突然話しかけたからか、もしくは何かを深く考えていたからか、もしくはその両方か… 数秒遅れて、目の光を無くしてそっけなく返事した。
『… 嫌いな食べ物、何?』
「… … … えっ」
先程、ひどく憂鬱を考えてたとは思えない雰囲気の中で 嫌いな食べ物を問うた。あっけらかんとした表情で私を見る。
「嫌いな食べ物… そうだなあ。きのこが嫌いかな…… しめじとか、しいたけとか」
『へえ… 私もきのこ嫌い』
「なんか美味しくないよね〜。ぐにぐにしてて、味が… 細かく刻まれても気づけそうだもん」
『分かる。この前刻まれたしいたけ、ご飯に混ざって出たんだけど、すぐに気づいたよ』
「そうだよねえ!やっぱりきのことは仲良くなれる気がしないな〜」
重たい空気から軽い空気に変わる。すごくくだらない会話だけど、少し気が合うだけでも心がふと軽くなる。
嫌いな食べ物の話をしただけなのに、さっきより心が全然楽だ。
「…ふう。そろそろ帰ろっか」
『そうだね。また来たら教えて』
「もちろん」
私も瑞希も、きのこが嫌い。それだけでいいじゃん。
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さき(プロフ) - ふみふゆさん» 迷惑だなんて、とんでもない!とっても嬉しいです!ありがとうございます…!! (2月6日 19時) (レス) id: bc9aead4c2 (このIDを非表示/違反報告)
ふみふゆ(プロフ) - 迷惑だったらすみません、雰囲気とか話し方とか、全然壊れてなくて好きです…… (2月6日 18時) (レス) @page12 id: aed784c8de (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さき。 | 作成日時:2023年9月12日 23時