𝙵𝚒𝚕𝚎.𝟷𝟻𝟶 ページ1
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それから私は、哀ちゃんを連れて一旦ホールから抜け出そうと試みた。
けれども出入口には黒装束に身を包んだスタッフがいて、まるで番人かのように仁王立ちをしている。その存在もあり、そのままホールから抜け出そうとすれば、サングラスをかけたスタッフらしき人物に腕を掴まれた。
「……すみません、この子ちょっと体調がわるくなっちゃったみたいで」
突き刺すようなスタッフの強い視線。それはどことなく私たちを睨んでいるようにも見える。私が咄嗟にそう言えば、パーティーに来た母子と捉えられたのかパッと腕を離してくれた。
私の企てがバレた?それとも、哀ちゃんの正体が……!?………いや、そんなことはないはずよ
もちろんこの人と面識はないが恐怖を感じる。"彼"の話では、ここの会場のスタッフはみんな組織の下っ端構成員。もちろんネームドではないから私たちの事は知らないはず。だから恐らく、この怖気は彼らの威圧感からによるものだろう。
ひとまずその強い視線を掻い潜ると、誰もいないお手洗いの扉に手をかけた。
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「──哀ちゃん、もう大丈夫。ここには誰もいないもの」
しっかり扉を閉め、会話が外部に漏れないことを確認する。もし誰かに私たちのことを勘づかれでもしたら大変。全てが水の泡だ。
移動中も顔を隠すようにずっと俯いていた哀ちゃんは、私達以外の人気がないと知るや否や、バッと顔を上げた。
「………この気配に臭い、今までに類を見ないスケールだわっ!そ、そうね…まるでこの会場にずっと姿をくらましていた天敵が潜んでいるような………!それに今の男からも感じたの、早くみんな逃げないと!」
近くの洗面台に寄りかかり、彼女は早口に声を震わせた。その顔は恐怖の色で染まって、蒼ざめ血の気が引いている。そういえばこの状態の彼女について、コナンくんから何回か聞いたことがある。彼女は組織の嫌な気配を感じ取れるのだと。けれども、今ここで下手に動くのはかえって危うくなる。
「……だめよ、哀ちゃん」
取り乱す哀ちゃんを引き留めると、"どうして……!?"と揺らぐ瞳。
「もうすぐ外に警察の人が来るの。だから、安心して」
今、誰かが会場から出たら変に怪しまれてしまう。
とっくに警部には連絡を入れているし、万が一なんてことはありえない。それにここに来るまでの途中、パトロールをしているように装ったパトカーが何台か見えた。きっと心配はいらない。
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作者名:匿名希望 | 作成日時:2023年12月19日 0時